姉SS

ソリロキィ


ぷち、音がして耳たぶに穴が空いた。
よし、明日別れよう。
一人呟いて決心を固める。

もう冗談ではない、大学も2年間を過ごした、
これ以上無駄に時間を浪費するわけにはいかないのだ。
うら若い時代は一瞬で去っていく、未来予想図が実家に居る。
姉は墓石みたいな色の制服で作り笑顔の毎日、
母は愛猫とともに肥る一方、
私も油断しているとああなってしまう。
運命が怖い、OGの就職先が全て灰色ブレザーなのが怖い。
DNAが怖い、猫を見ると可愛いと思ってしまう自分が怖い。
体重計と風呂場の鏡と女子高生が怖い、ああいやだ、毎日、明日が嫌だと思う。

いや、今日の明日は違う。

「あんた、最近付き合っとる人おるんでしょ見せてみぃ、悪い虫にでもつかれとったら困るがね」

「そんなんおらんから心配せんといて」

「でもあんたもう幾つだね」

「まだハタチ前よっ、そんな話ばっかなら切るからね」

かちゃんっ、派手に音をたてて受話器を叩きつける。
今時、回線電話を使っているのも私くらいだろう、
というかこの田舎はこんなものが現役で、

ピリリリリ

「はい、もしもし」

「あんた、物は大事にせんと電話壊れるがね、バチがあたるに」

「悪かったわよ、本当にまったくもってわたくしが悪ぅございました、おやすみ、アディオスおかあちゃん」

かたん、寂しげな音を立てて電話が黙った。
安い下宿の備え付け電話は母からのコールと選挙のお願いでしか働いた記憶がない。
あたし何してたんだかな、ああ、そうか。
もう一度自分のケータイを取り出す、メールをチェック、

件名:明日の予定
内容:朝10時に迎えに行きます。

もう少し書くことないのか。
色々期待を込めた不満を持つが、ふぅ、ため息を一つ、
そんな心配ももうオシマイよ、にやりと一人暮らしの女が部屋で笑う。
明日この男とは別れるのだ。明るい未来のために。

高校では少し生物ができた、
理系女子ってのは就職に有利だと聞いた、
近所の公立大学で入れそうなところがここだけだった。
思いつく限りの打算から、私は隣の県の大学で農学部を受験という道を選んだ。
バイオテクノロジーだの環境アセスだのと、
語感だけで就職有利そうだと入学した元女子高生の私。

気付いた時には、荒れ地を耕し、畜生と戯れ、ジャージが部屋着以外の使命を得ていた。

「日本て農業国だったのねぇ」

「どしたの?」

「毎日毎日、トマトだのスイカだの牛だの豚だの、こういうのが本当に役立つ国なのね」

「嫌いなの?」

「やる意味あんのかなって、就職したらどうせ事務じゃん」

「四大卒と呼ばれるためのお務めだもの、我慢よ」

「何それ」

「愛しい彼氏の受け売り」

「そりゃよかったね。年上の彼氏ってどう?」

「うきき、頼り甲斐があっていいわよ、テストの過去問とか、講義の取り方とか、レポートの内容とか♪」

「愛は無いのか」

「うききき、愛は愛であるのよ、ぐふふ」

嫌な笑い方をするが、それ以外はとても美人でいい子だ。
ポニーテールがジャージによく似合うし、化粧も上手い。
家畜の臭いを消す香水を知っている貴重な友人。

「うきき笑い」をする彼女とは、入学式の席が隣で
「やば、トイレだだ込みだがっ」と
当時の言葉でいう「チョボぱん」だった私を
「上にもトイレあるってさ」という言葉で
新入生立入禁止な上に女人禁制の所まで連れ込んだことで、
友情を形成し今に至る。

「知ってる?ウサギって寂しいと死ぬのよ」

「何?急に」

「女の子も寂しいと死んでしまうって例え話」

「新しいドラマかなんか?」

「今度の休み暇?」

「はぁ?」

「ちょっと人に会ってみない?彼氏の友達でさ、なんていうか、合コンみたいな」

「あんたら同伴なら、合コンでなくて、お見合いってんじゃないのそれ」

「うきき、休み明けといてね」

会話になっていないのだが、笑顔もやっぱり美人だなぁと思って、
暇だしいいか、と軽い気持ちで請け負った休みの日、

「初めまして」
「は、じめまして」

とドラマを笑った私が、一目惚れという、
全然、新鮮みのないドラマみたいな展開に陥ってしまった。



一つ年上の信博という男は、
ぱっと見たところ頼り甲斐があるという年上の素養を微塵も悟らせない、
つまり頼りない印象と外見だったけど、賢い人らしく、
四人で遊んだカラオケの部屋代を一瞬できっちり4等分して、
「銭」という単位を株式放送以外で、私に初めて聞かせた人だ。
その時525円50銭分をおごって貰い、
コンビニでハーゲンダッツを与えられ、

「猫好き?」

「え、どうして」

「僕も好きなんだ、だからわかる」

とか言われて猫を見に行く約束をしてしまい、期末テストが近かったから、

「これが去年の系統分類学の問題、あとこれ農業経済学ね」

と答えの書かれたプリントを渡され、

「この教授は毎年同じ問題だから、病理のレポートはカビの話しておけばクリアだよ」

とか説明を聞いている内に

「付き合ってください」

と、ドラマで主役が言う台詞を聞いてそういう関係になっていた。

私はそれまで彼氏というものを所有したことがなく、
初彼氏をこの男にしてよいものかと悩んだのだけど、
休みの度に約束がある日々が過ぎ、
キャンパスで手を繋いで歩くのが当たり前になり、
相手の講義待ちをする自分を得意げに感じる頃には、
「私の彼氏超かっこいい」
とか平気で言うような重い病を患っていた。

「信博さんて今まで彼女いたことあるんですか?」
「ないよ」

とそれまでのすげぇ馴らしていたかのような振る舞いから
考えられないような返答を聞いて驚いたのが懐かしい。
知らない楽しい場所へ連れていってくれる、そこで食事や時間に困ったことがない。
それだけの理由でこの人が慣れていると思っていたのだが、
「私が初彼女」と聞き、きっと生まれつき上手な人なのだと
勝手に判断していた私、若かった。
3度目のデートで昆虫博物館へと連れていくような男、普通じゃない。

「たまには変わってるところもいいでしょ」

「うん。信博物知りなんだね」

「そうでもないさ」

「いや、普通知らないってあんな見たこともない虫の名前」

「男の子はみんな昆虫好きなんだよ、小学校の時に昆虫の名前と戦国武将の名前はほとんど覚えちゃうんだ」

ブリリアントな笑顔でそう言われてすっかり信じていた。
しっかりしろ若い私。
今の私ならそんな奴いねぇよとつっこめるのだが、
幼かった私はそれがおかしいと気付けなかった。
それどころか、3ヶ月で肉体関係なんてスローな感じで私達らしいとか、
乙女回路をフル稼働させており、
初めての恋人ごっこに酔った私は、毎日がとても大切で貴重な時間に感じられ、
次の日が待ち遠しくて仕方なかったのだ。

そんなある種の危篤状態から持ち直した、
というか私が違和感を覚えだしたのが今年。
年次が一つあがり私が2年生、信博が3年生になり研究室へと配属された春。
私は信博が随分頭よくて、学年でも1,2を争う成績だと聞いていて、
この学部の花形である「育種学」か「植物病理学」の研究室へと進むもんだと思っていたのだが、
何を思ったのか信博は、「昆虫学」という奇怪な研究室を選んでいた。

流石に不審に思い真意を尋ねに部屋まで行った私だが、
信博の凄いうれしそうな表情になんだか私まで喜んでしまい、気付くと
「おめでとう信博」とケチャップで書いたオムライスを二人でつつきながら、
デザートにハーゲンダッツを食べて、有頂天というか浮かれていた。
「どうして昆虫学なのか」なんてどうでもいいとか思ってしまっていた。
その夜、そんな状態の私に最高の笑顔で信博が

「応援してくれてありがとう」

だとか、まったくしてねぇよとつっこむ事もできないような
澄んだ瞳で見つめながら告げるというシチュエーションに遭遇。
ころりとやられて初めてのお泊まりに至ったのが痛い。凄く痛い。

私の乙女回路はその後暴走を始める。

少し経ち私は講義で忙しくなり、信博も研究があるからと会う機会が減って、
だからその反動だったと思う、たまに会えると凄くうれしくて、

「好き、信博」
「僕もだよ」

なんて。死んでしまえ当時の私。
バイトで遅くなった帰りに「お疲れさま」と迎えに来た信博が、ご飯作ってくれたりして泣いたあの夏。
どっちかの部屋に泊まりに行く、気恥ずかしそうに泊まっていくと告げるそんな夜。
冷静に考えるとサブイボがお尻にまで出そうな、脳に何か湧いているとしか思えない馬鹿女っぷり。
だからだろう、この時期というかここ数ヶ月、
不幸なことに私は男から声をかけられることがほとんどなかった、
あっても断るという愚行に及んでいる。

狭い田舎の大学、声をかけるような物好きなんざ少数派で、
その内のいくつかを断れば
「あれは無理」
という噂が立つものだと知ったのは、ごく最近。
何も知らない昔の私は幸せを満喫していると錯覚しながら、数ヶ月を過ごす。
しかし、久しぶりに休みが合って遊びに行こうと誘われたあの日。

「昆虫採集?」
「ごめん子供みたいだけど研究で必要なんだ」

と申し訳なさそうに言われて、ほいほいとついていったあの日。
久しぶりのデートだと何も知らず笑っていた、そう、あの日。
私はようやく気付いたのだ。

「綺麗なところだね」

「駅前あたりじゃ絶対考えられない光景だよな」

「本当、こういうのいいかも、バイトでネオンに疲れてるな、私」

などと言って、綺麗な青空の下で麦わら帽子にワンピースの私が、
彼氏の研究を見守るのも悪くないとか思ってたけども、心の中で誰かが呟いた。
ハタチを過ぎた男子がようやくできた休日に彼女を連れて、
草原で虫取り網片手に走り回っている、しかも白衣で。

おかしくねぇか?

ようやくその思考まで辿り着くことができた私は、初めて踏み込んだのだ。

「ねぇ、どれくらいするの?」

「スズメガを何種か採取できたら終わるよ、ごめんね」

「スズメガ?なに?」

「これ」

と何気なく見せられて、ああ、そうだあの瞬間だ、精神カウンセラーを欲したあの瞬間。
信博が見せた、虫かごではない手製のプラスチックケース(ケージと言うらしい)。
その中でもぞもぞと、まさに蠢く「蛾」。

「ぎゃああああっっ」

「女の子がそんな声出すなよ」

「じょ、冗談じゃないわよっ、な、なにその、キモっ、寄るな、キモい、帰れ、散れ消えてなくなれっ」

「こんなに可愛いのに、触るともふもふして」

「つまむなああっ、近寄るなぁああっっ、ぎゃあああっ、おかあちゃぁあああんっ」

それまでの乙女装備を脱ぎ捨てて素の私が解放された。
一瞬しまったと思ったけど平然と素の私を受け入れている信博を見て、
私の心が急に冷えた、沈んだ、凍てついた。
今までキャラ作ってた私っていったい、
あんな状態に浸ってた私っていったい、
この目の前の生き物はいったい…。

バタバタと暴れ、おぞましい動きを見せる奇怪な生き物を
彼女に見せようと苦労している人型のオス。
もはや大事にしないといけない彼氏という存在は消えてなくなり、
危険な人型の動物が目の前にいるとしか認識できなくなった。

それから私は変わった。

「キモい、寄るなウジ虫野郎」

「なんて言葉使うんだ、本当のウジなんか見たこともないくせに」

「だ、出すの!?携帯してんのか、まさかっ」

「するかっ」

と、恋人同士として初めての喧嘩をしたのがそのすぐ後くらい。
付き合って半年、一般的にもそういう時期だったろうに思うが、
私が聞いていた痴話喧嘩とはだいぶ違うように思う。



「そういや、彼氏、頭いいんでしょ、いいなー」

「そうでもないよ」

「嘘よ、うちのなんて頭悪くて、カップ焼きそば作ったお湯を別のカップ麺で
リサイクルとかすんの、面倒だからって、馬鹿じゃないかって思うよ本当、
逆ならラーメン味で作れるのにね」

「うん、なんというか、でもお似合いじゃないかしらね」

彼氏に劣らぬ自分の馬鹿っぷりを告白する友達との会話で、
部屋の中をクモがはいずり回っているというのに
「ああ、あれはハエトリグモといって俺の身の回りから害虫を駆除してくれているんだ」
などと真顔でほざく彼氏のことなど言えるはずもない。

「なんか印象変わったね」

「そう?」

「こりゃあれだな、やっぱ年上の男と付き合うって違うね、うききき」

「そうかもね」

それは違うと言いたいところだが、
実際あの男だからこそ急速に成長できたような気もする。
もう思い出のように考えるようになりつつあった私を
決意に至らせる日がやってきた。

「何人かの女子に聞いたらスズメガは不評だった、ごめんね」

「え、あ、そう?」

「というわけで、今度は別のにした、ヨナクニサンとかクスサンとかにする」

「何、それ」

「凄い綺麗なんだよ」

「だから、何…って、ちょ、いやっ、ぎゃあああっ」

「あっ!」

「た、助けて、助けて信博っ」

「こりゃ珍しい、オオミズアオだよ、すげぇ、ホンモノ初めてみた」

「こりゃ珍しいじゃねぇだろ、何喜んでんだって、うぎゃああっ、キモ、キモいっ」

「馬鹿言うな、すげぇ超綺麗じゃん、でらかっけぇっ」

「おかぁちゃああんっ怖いよぉこの男が怖いよぉっ」

と怖がる彼女に脇目もふらず、
人間の顔を覆い尽くすほどの巨大蛾を見て嬉々とする男が彼氏だという絶望的な現実に、
私の乙女回路は壊れた。全然無理、遊園地でそんなもん捕まえようとする男、絶対ダメ。
そう思ったひと月前。
あの日から翌朝が来ることに怯えた毎日を過ごしてきたんだ。
どこで間違えたんだと嘆き続けた日々。

「思い返すだけでも身体が冷えるわ、私、凄い頑張った」

バックライトが消えたケータイの画面を見つめつつ、もう一度念じる。
明日別れよう。ここ数週間、ずっと明日こそと思いながら何もできなかった。
惰性というか、初めてだから別れ方を知らなかった私、
タイミングがわからなかった私、
そうじゃない時がたまにあって期待してしまう私。
失恋というのが、こんなエキセントリックだったとは知らなかったけど、心が痛いのは確か。
私は明日彼氏と別れる、耳たぶがじんじんと赤く熱い。空けたピアスの穴は決意表明だ。
来月には赤い石がここに光る。



「や、待たせたね」

「うん、とっても待ったよ、待ちわびたよ」

「ごめんね、じゃ、お詫びにハーゲンダッツを買ってあげよう」

「やった」

って、喜ぶな落ち着け私。
いつもの通りやってきた信博、私が喜ぶのを見たいからと、ハーゲンダッツを買ってくれる。
いつものことじゃない。特別ではないんだと言い聞かせて、
でも、とりあえず受け取っておくクリスピーサンド、キャラメル味、ステキ。

「あれ、ピアス、空けたの?」

「う、うん」

「そうか、じゃ、今度一緒に見にいこっか」

「ん、いい、もう欲しいの決まってるから、赤い石のピアス」

答える私、よもや決意の赤だとは思うまいて。

「今日は、どこ行くの」

「うん、久しぶりに映画でも」

「え、バグズライフ?」

「やってないだろそんなの」

笑いながら歩く私達。
優しい木漏れ日が包んでくれる、二人で映画を見たのが楽しかったと思ってた頃もあったな。
遠回しに昔を振り返り、既に過去完了形で全てを考えつつある自分にとても満足しつつ、
ただ、そのタイミングをはかる。
映画の後にしようかな、帰りがいいかな。

「ぼんやりしてると危ないぞ」
「んー?」

本当にぼんやりしていたんだと思う。よく覚えてない。
がさっ、植木を派手に叩いてしまったんだ。ぶつかったというか、当たったというか。
手にぺっとりしたような感触があった。
ツツジの葉っぱは表面に毛がたくさんあるからモチっとした手触りだと、
講義の内容を思い出してたのは覚えている。
ツツジの植え込みに手が当たったんだ。

「痛っ!」

「どした、って、しっかりしろっ」

理解できないうちに、私は腰からくだけてへろへろと座り込んでしまった。
手に強い痛みがあった。
耳に羽音が聞こえた。

蜂に刺されたんだと気付いた。

今まで感じたこともないような酷い痛みが右手を脈打ちながら登ってくる。
波が引いていくように身体の力が抜けて、震えと寒さがこんにちは。

「え、え、え?」

「大丈夫だよ、とりあえずこれで冷やして」

狼狽える私は渡されたペットボトルの水を、わからないまま痛いところにかけた。
ぼんやりした視界には、凄いスピードでどこからともなくビニール袋を取り出した信博が
ツツジの木と格闘しているのが見えた。
アロモン。よくわからないけどそんな単語も聞こえたように思う。



「なんだったの?」

「信博、蜂の巣駆除したんだって」

「凄い人だね。しかしハチに刺されて倒れるなんて、あんた身体弱かったんだね」

「体質なんだってさ」

「抗体の過剰反応とかいう奴でしょ、二回刺されると死ぬっていう」

「本当にそういう体質の人は一回目からヤバイんだって、だからほら、私」

微笑みながら私は病院で寝ている。
見舞いに来た友人は心配そうに見つめながらも、
とりあえずの無事を確認してほっとしているみたい。

「でもよかったね、信博さんが凄い適切な処置したって」

「…うん」

「うきき、やっぱ、あれ?おしっこかけたりとか」

「あれ嘘なんだよ、バイ菌入って逆に危ないって」

信博の受け売りを話す私。
それを聞いてなんか違うことを思ったのか、友人はニヤニヤと笑っている。
「調子どう?」言いながら信博が入ってきた。
友人は簡単に挨拶をして、うきき笑いを残しつつ去っていった。

「明日には退院できるよ」

「ごめんね心配かけて」

「いいんだよ」

優しい笑顔で信博は私を見つめている。
倒れてから丸一日くらい、ずっと一緒に居てくれた。
親と姉は薄情なもので見舞いに来やしない。

「折角のお休みだったのに無駄に潰しちゃったね」

「そんなことないさ、一緒に過ごしたじゃん」

言うと思った、私は心で呟く。

「それに、明日も休みだろ?」

「え、信博二日も休んでいいの?実験昆虫が死ぬんじゃないの?」

「だって明日、誕生日だろ、お祝いする」

ああ、なんでこの男はこんななのにあんななのだ。

「誕生日プレゼント何が欲しい?」
「うん…」

なんでもいいよと答えると、信博はそれじゃ困ると言いながら、
きっと赤い石のピアスとハーゲンダッツを買ってくるんだろう。少し考えて私は告げる、

「殺虫剤がいい」

「え?」

「一番強い殺虫剤買って。詳しいでしょ、悪い虫だけ退治できるやつね」

私が言い放った言葉に動きが止まる信博。
でも、すぐに笑顔を返してきた。
大方、今回の件で虫嫌いになったと思ってんだろう。
私は笑顔を返す。

「殺虫剤て人にも効くのかしら」

「まともに吸い込んだら危ないかもね」

大まじめに答えた信博が私の頭を撫でる、
私は心の中で笑いながら明日を考えている。
右手の痛みは少しだけ残ってる、でも、
ハーゲンダッツを食べて殺虫剤を噴射するくらいはできるだろう。
明日が楽しみ。そう思うと、なぜか私の耳たぶは赤く熱くなる。

明日も多分、耳たぶは赤く熱くなる。
お母ちゃんに言われたのだ、悪い虫は払わなくてはならない、

願わくば、悪い虫ではありませんように。





もどる

姉SSじゃないんですけどね(いきなりかよ)

。とかつけているあたり、HP用に書いたのでないのですが、
恥ずかしながら、Yahoo文学賞というのにノミネートしてみようと
締め切り前日に書いた、ステキラブロマンス
個人的に様々なマーケティングをして、なるほど
世の中BADエンドは所望していないと気付いたため
もう、どうしようもないような
ラブいのを書こうと上記のようになりましたとさ

テーマ「明日」と書かれていて、上記を書くあたり
俺、テーマ関係なく、虫の話したかっただけじゃん
みたく思いますが、その通りでありました

当然のように底の浅さが露呈して
いい塩梅で、なんか、妙な異臭がするような内容に出来上がったので
ページ用にして、ちょっといじって異臭を取り除いたつもりでしたが
無理だなこれは

そんなわけなので、折角だから
クリスマスイブにお送りいたします。

駄文長々失礼いたしました
R(05/12/24)