姉SS

ミーン オブ リベンジ


合戦の後、まだ煙る世界は
その雄雄しさを失わず
とうとうと、戦の匂いをあちこちから漂わせている

空は赤く染まった
黒々とした煙は、ややも晴れ
夕焼けが、空を焦がすよう
雲の底を燃やしながら、大きな空を
紅蓮に包み始めた、まだ沈みきるには刻がある
こちそちに青ないし紫の色が空に残る

「残党を狩り出せっ!!首級は全て、手柄と心得よっ!!」

武者ぶり見事な騎馬が1つ
大声で叫びながら走り去っていく
勝敗はほぼ決した
赤の旗と白の旗
それらがみどろとなって戦った末
赤の旗が、この場を制した
白の旗は、ことごとくが逃げ散ったが
未だ伏して機会をうかがうものもいる、それらを一掃すべく
そこかしこで、落ち武者狩りが始まっている

「うおあっ!!!!」

「いたぞっ、はしこいっ、小さいのがいたぞっ!!」

ぞだだだっ
足早に、そして重たい足音が走った
白い鉢巻が颯爽と走った
叫ばれた通り、身柄は小さい
だがすばしこく、そして涼しく伸びた瞳が強い
怒りを宿して、一人、二人と刃を浴びせた
銀色のまばゆさが悲しい

「かくなる上は、一人でも多くの道連れを率いてくれるっ、かかってこいっ」

「五月蝿いチビ助がっ、そのでかい口、槍にて封じてくれるわっ!!!」

がいんっ、ぎぃんっ
何度か渡り合う、いや違う
突く槍を必死でしのいでいるだけ、一方的だ
チビ助は威勢だけで、体術にはさっぱり長けぬ様子
先刻、斬られたと見えた赤い兵もすぐに立ち上がった
いずれも、致命傷とは程遠いらしい

「はははっ、空威張りも甚だしいな、大方、戦場もその体で逃げ回った口かっ、がはははっ」

「お、おのれっ、ぐ、愚弄するなっ!!!」

ぶぅんっ
大きく外れる、いや、ぶぅん、という音がおかしい
へにょん、そんな具合のへっぽこ刀だ、当たるわけもない
すっかり笑い草、相手にした赤武者もあまりのヘボぶりに
つい殺気が緩んだ、適当に遊んであしらっている
当然廻りで見ている連中もそれがわかり、手を添えず笑ってみている
やんやとはやしたて、囲まれたチビ助は
ある種の辱めを受けているに等しい

「く、くそっ、お、おのれっ!!」

「そうれどうした、早くこぬか、仇はここじゃ、そらそら」

敵兵があさましく踊らされる様は、実に痛快でもある
勝利に酔っている赤の兵からすれば
この余興ほど胸のすく物はない
しかし、流石に油断をしすぎた

すわっ

「ぎゃぁっ!」

一刀が、仇を見舞った
驚くのは斬られた男だ
一瞬血の気を引いたが、すぐに逆上し
槍をいよいよ持ち直し叫んだ

「おのれ、遊びもこれまで、死ねや死ねやっ」

怒りにまかせて大きく柄を振り回しチビ助の足を払った
もんどりうって倒れるチビ助、そして旋回した槍の先がぴたりと宙で狙いを定めた

「己らっ、何をしておるかっ!!!」

「!」

その場、唐突に凛とした声が通った
騎馬がゆっくりと近づいてきた
額には紅の鉢巻がなされ、長槍をたずさえている
声に驚いたか、構えたままで振り返る手負いの武者

「いや、敵方の残党を」

「馬鹿者っ、くだらぬことに興じておる暇があれば、撤退の準備をせぬかっ」

大喝
雷のように大きな声が戦場にこだまする
廻りで笑っていた連中も、自分が叱られたように
居住まいを正し、申し訳なさそうな顔をする

「しかも、残党相手に手傷を負うなど言語道断、即刻治療せよ、戦場での傷は膿むぞ」

わたわた
騎馬の命令に、その場にいた雑兵は
恐れを抱いて去るばかりとなった
あっけに取られたチビ助は、その場でへたりこんでいる

「こいつは、すぐにでも手打ちに」

言うざま、刀を振りかぶる雑兵
それを見て、癇に障った表情で騎馬が吼える

「阿呆っ、もう戦の決着はついた、無益なことをするな、そいつの身柄は私が貰い受ける」

へへっ
すぐに頭を低くして、抜き身を仕舞い
雑兵はたちどころに散った
チビ助は、阿呆のように口をあけて
馬上の人を見上げている
見上げた先から、チビ助の喉元へと槍の先が伸びてきた
白く輝いた刃が、汚れを知らぬ姿をさらす
突きつけられ、チビ助は顔を蒼く白くさせている
黒柄から、まっすぐに伸びて、キラリ、刃が輝く

「立て」

すく、言われるままだ
視線は馬上からはずせない、はずした瞬間に殺される
そう感じて、おびえながら足を震わせて立ち上がった
槍の先は喉から幾寸も離れない
これは驚くほど巧緻な技術だ、相当の手練だろう
夕焼けを背にしているせいか
暗くなって顔はよく見えない、だが、鉢巻の姿を見る限り
相当の偉丈夫だと伺える

「そのまま後ろを向け、そしてまっすぐ歩け」

くるり

「言っておくが、走って逃げようなどと思わぬことだ、槍がすぐ首をとらえる」

ぽくぽくぽくぽく
馬の足音をひきつれて
捕虜としてチビ助は丘をこえて先へと連れていかれた
喧騒からは離れた、残された雑兵は撤退の支度を始めた
それらから見えぬ位置に来る

「もうよかろう、ここから先へと走れば落ちられる、逃げよ」

「な・・・・・?ば、バカなっ、敵方に情けを受けて落ち延びるなど・・・斬れっ、斬れっ」

「死に急ぐ必要もない、今落ちれば、新しい人生が開ける、【嫁】にもいけるぞ」

ぼんっ
顔を真っ赤にして、チビ助は狼狽えた
あわあわ、口をぱくぱくさせている
馬上の武者は、ゆっくりと馬から下りた
喉が渇くのか、水筒から水をあびるように飲んでいる

「ば、ば、ば、ば、ば、ば」

「女、ばばばばば、とか、言わないほうがいいぞ、モテなくな」

「黙れっ、何言ってやがるっ、誰が女だこんちくしょうっ」

「こんちくしょう、つうのが古いな、お前何時代の女だ」

「な、何時代もなんとか、ああああ、お、お、女とかいうな、いうなっ!!」

かちんっ、ちゃき

「死に急ぐなと言っているんだ、早く落ちよ」

憤り、短刀を抜いたチビ助だが
その喉元に、すぐ刃が当てられた
刀を構えた武者はそれながらも
水筒の水をまだ飲んでいる

「わ、私わ・・・・父と兄をこの戦で失い、その仇をとるまで、いや
仇をとることだけをもはや、生きがいとするしか無いっ、この場で見失えば
おそらくは二度と見舞えることもない、それが果たせぬなら、ここで、ここで」

「気持ちはわかった・・・・が、その白襷(しろたすき)のままでは、目立ちすぎるだろう、殺してくれと宣伝している」

「これを捨てるほど安い誇りは持たぬ、捨てて汚名を蒙るなど、絶対に許されぬ」

武者はじっとその瞳を見つめ返した
ずいぶんと綺麗な目をしている
おそらく目だけでなく、容姿も整えれば
それなりの娘なのだろう
少し瞳に哀れが滲んだ、じっくりと諭すように言葉を続ける

「なぜ戦場まで伴った、足手まといであったろう」

「母はおらず、父と兄のみの家族で、唯一無二の親族が命を賭けるのに
一人のうのうとおられるはずもない、だから、隠れて雑兵に紛れて・・・」

「家族の絆は・・・・確かに強いものだろう、だけども、嫁に行き、主を支えるのが
女のつとめ、それをなさずに死ぬとなれば、それこそ、父君と兄君を悲しませること」

「何を、何がわかるっ、何が女のつとめだっ、くだらぬことを申すなっ、肉親を捨ててまで
守るべきものなど、この世にあるはずもないっ」

「それは違う、生き延びればわかる、どこかに尽くすべき殿方がいること、それを見ぬ内から」

「だからっ、そうして喜ばせたかった父や、兄は・・・もう、いないのだ・・・・」

痛哭が響いた
かぁかぁ、カラスが鳴いていく
水筒は元の腰へと戻った

「親御を亡くすのは確かに、身を引き裂かれる辛さだろう、だが、その辛さから逃げる為に死ぬようなことは
人間としては尊敬できぬ、阿呆のすることだ」

「に、逃げるだとっ、何を、このまま生き恥をさらせと言うのかっ」

「・・・・・・私も仇がいる、主君を殺されたのだ、だがこうして生きている」

「・・・」

「情けないことに、主君に私だけは落ちるよう命令を受けた、嫌がったが
かなうわけも無い、そういう世界だ、だから落ちた、そして落ち延びることで
必ず再起を図ることを誓った、人はそういう生き方で恨みを晴らすことができる
死ぬことでは、一瞬の、そのときだけの開放を味わうだけだろう、生きて
この恨みを忘れず、生き続けることで恨みを晴らすことができる
今は生きるべきだ、違いない、見てみよ今の私の姿を、必ず未来において
一事を成す、この気概と気迫を」

チビ助は一瞬目を奪われた
他愛の無い説得、言葉だけはそうだが
姿と迫力から、得体のしれない圧力を感じた
今死ぬことの愚かしさ
それが、少なからずわかった気がする
いや、それ以上だ、この人物から溢れる説得力に頷いた
漠然としているが、この夕焼けが目にしみる寂しさが匂い立つように感じる

「今死ぬのは、今の辛さから逃げるだけのこと、真に仇への気持ちがあるならば
不用意に死ぬことがもっとも浅はかだ、考え直せ、よいな」

「は、い」

「ならば、行くがいい、そこから抜ければ、隣国だ」

刀を仕舞う武者
促すようにもう一度、チビ助に視線を飛ばした
鋭い、だけども、温かみのある母性すら感じる包容力

「・・・・・・・しかし、私を生かしてあなたは」

「・・・・・・しまった」

不運?
そう思える足音が近づいてきた
ぱからぱからぱから、馬の足音
武者がはゆっくりと振り返る、赤い鉢巻が切なくなびいた

「おい、それは敵方ではないか、何をしている」

「いえ・・・」

武者は口ごもる、流石によい嘘がすぐに浮かばない
焦りが汗となり頬を伝う
馬は近づいてきた、チビ助は狼狽を隠せないでいる
せっかく生きると誓ったのに・・・・・・
生きたいという気持ちが芽生えた先
目からは動揺と哀惜が、しかしその瞳に近づいてきた騎馬が
鮮明に映りこんだ

「そのような小さな兵にてこずるとは、笑止な」

「貴様はっ!」

「?」

チビ助の声が唐突に響いた、本人も無意識で発している
まさか
匿(かくま)った赤鉢巻がうろたえる
その目には、今鎮火したはずの怒りを再び燃やしたチビ助が映る

「父と兄の仇っ、ここで会えたが、逃すよしなし、尋常にこの恨みを受けよっ」

「な、なにをい」

どだだっ、ずぶっ
一瞬だった、へっぽこ刀でも
馬上に向けて、ただまっすぐ突き刺すだけならば
簡単にし遂げた、鮮血が上がり血が、チビ助の鉢巻を赤く染める
赤鉢巻の背から飛び出すようにして一撃を見舞った
あっけに取られたが、見回りに来たのはこの仇のほか2人
それがすぐに殺到する

「己貴様っ、負け武者如きが、なにするぞっ!!!!」

ぎぃんっ
殺到した一人が槍を突き向ける
だが、それを地上の刃が柄を二つに割って止めた
ざ、足の音が刻まれる
驚くのは馬上の二人、そして、白方のチビ助

「おいお前っ、何をするっ、??・・・・・貴様、まさか・・・」

「雑兵如きに名乗るほど安くない」

ずんっ、一閃はきらめくと
馬上の一人の首が飛んだ
匿っていた赤い鉢巻が、その雑兵と戦い始めた
仇をとったチビ助は、驚いたまま
後ずさりしてへこたれた
その目の前で、颯爽と死体を蹴落とし馬を奪い跨る赤鉢巻
そして身を翻して、残った一人と刃を交えた

ちぃんっ、きぃんっ
夕焼けはすっかり薄暗さすら覚えるほどになった
その中を、白い輝きが、煌いてはじける
ざすざすざざっ、馬を器用に操り
二人の武者は互いの命を削りあった
やがて組合い、二つの身体が寄り添うようにまとまった

「己、たばかったな、赤鉢巻を巻き欺くとは卑怯なりっ、恥を知れ」

「馬鹿を言うなよ、いつ欺いた、そして敵方の鉢巻など巻いたというかっ
そのような薄汚いもの、巻くほどの卑しさは持ち合わせぬ
これは、我らが白鉢巻に、己らの醜い血が飛んだだけのこと、だっ」

どがっ

ついに押し勝って、刃が相手の首をとらえた
ずぶり、喉元から血が溢れた、ぎゃぁあ、断末魔が上がる
喉を切られて大きくはないが、確かな今際の声
しかし死に損なうそのとき、死に体の一刀が
血鉢巻の額をなでた、鉢巻が二つに割れて落ちた
傷は無い、血も上がらない、どうやら件(くだん)の鉢巻のみが斬られたらしい
喧騒が止む、他に見ているものは幸い、居ない

空はもう、すっかりと闇が支配しつつある
チビ助は、地上より仰ぎ見て
その様子を目に焼き付けた
目の前で、敵方の男どもはことごとく死んだ
殺したのは敵だと思っていた武者
いや、思っていたのは敵だという話だけじゃない

「あなた・・・・・・も、女だったのか」

「・・・・・・・これでは、台無しだな」

聞いた風もない
馬上の人は、鉢巻が落ちたことにより
天へと広がった黒髪を手に掬った
しげしげと眺めながら、もう一度まとめなおし
後ろへ束ねた
美しい顔、切れ長の瞳、カラスの濡れ羽色の長髪、いや御髪(おぐし)と呼ぶべきだ

「・・・その、今の武者ぶり・・・まさか、仇って・・あな、貴方様は、御大将の」

「これ以上は、仕方ない、馬には乗れるのだろう、急ぐぞ」

せわしなく、さっぱり人の話を聞かないで
馬上の人が促した
言われて、気づいたか、チビ助もすぐ馬にまたがった
育ちのせいだろう、馬くらいは容易に乗りこなす
しかしとなりの人は、いや、むしろだからこそ

「この場は落ちるとしよう、よいな」

「は、はい・・・あの、しかし」

「生きていれば、必ず、必ずできる・・・・さぁ」

夕闇が訪れた
馬が消えていく

もともとは一族の敵討ちから始まった戦だった
しかし気づけば、血族の争いになっていた
味方同士の戦いだった
先勝した軍の大将が、調子に乗って勝ち場を荒らしたため
後方の本隊に討たれた、そういう戦だった

先勝した大将は名将だった
その傍らに、美しい女武将が居たと言われている
夫婦ではなかったようだが、男女とはその1つだけではない
いずれにせよ、追っ手となったかつての味方、縁戚に排されたのだ
二人は引き裂かれた、仲も、生死も、運命も

人の因業だろうか
血族で争うこと
また、血族の仇を討つことも

そののち

大儀と謳う一族の敵討ちは見事果たされた
ただ、私怨と蔑まれる敵討ちは果たされたのか
それは解らない

果たす方法も色々とあるのだろうから
まず、果たされたと見よう





もどる

今年の大河ドラマが義経なので
前々、弁慶の小説読んだ後に
書こうと思っていたものを1つ
歴史研究していませんので
さまざま違うと思われますが
木曽義仲と巴御前のイメージでございました

赤とか白とかは、色だけで選んだので
実際の何某とは一切関係ありません

駄文長々失礼いたしました
R(05/01/03)