姉SS

キリング ホリデー


休日にしかやれないことなんて
あんまり思いつかない
しかも、驚くほどの真夏日とかNHKが言い出したら
もうダメだろう
道行く人々という題名で映される
オフィス街の住人達を眺めると、ほとほとうんざりする
休みは休むものだ

と、思うんだが
それはそれとて
人間、暇になるとダメになる
というか暇に耐えられるほど頑丈にできてない
ドモホルン○ンクルを一滴一滴眺めている人が
どうして給金貰えるかわかるか?
暇で暇で仕方ないのを、我慢してるからだ、きっとそうだ
そうでなくてはならない

「腐っとるな・・・・・・・・」

一通り妄想と、自分の意見を並べたところで
休日に暇だとろくな事を考えないという結論にいたり
だらだら、午前中が過ぎていく
こうなるとアレだ、友達が少ない僕には、一つしか方法がない

からんからん

扉を押すと涼しげな鐘が主人へと僕の存在を報せる
入ると、まず待合い席のソファーがあって
そこには、中年親父を中心に、スポーツ新聞なんかを読んで
順番を待つ人々が居る
クーラーが利いていて中は随分涼しい、僕も習うようにして
ここに座る、過ぎていく時間
流れているのはFMか有線か
扉の外では、開店以来、ずっと動いているのであろう
赤と青と白の支柱、サインポールがくるりくるり
そうだ、こういう時は床屋にくるのが一番なんだよ

「次の方ー」

少し待って、呼ばれるままに席へと行くと
黒革のチェアーが待っている、これは一機で幾らくらいするんだろうか
そんなくだらない事を考えつつ、座ると
すぐに、テルテル坊主みたくクロスを巻かれて、暫く放置
このあとだ、気の利いた店主がくる
床屋の店主ってのは、なかなかかっこいいというか、なんというかという親父が多い
客層に合わせてなのか、リーゼントとかオールバックとか、時にはパンチとか
なかなかズレているのにかっこいい親父が多いのだが
僕のお気に入りのここは、そんなハンパものじゃない
アフロだ、アフロマンなんだ、すげぇ、超かっこいい
男の憧れとして、この親父と喋るのが楽しいからと、ここに通って早くも・・・

「お待たせしましたー」

「っって、ええええ!?」

「はい?」

「い、いや、あの、いつものアフロマンは」

「ああ、店長は今休憩中でして」

「ちょ、な、なに、そ、」

「えーと、いつもの通りでいいですかー?」

「いや、はいって、おい、いつものって解って」

「あー、大丈夫ですよ、ほら、カルテとかありますし、へー、ずっと短いんですねー」

か、カルテ!?なんでそんな病院めいたことしてんだよ
いや、確かにサインポールが血管かなんかを顕わして、昔ぁ病院だったって
アフロマスターが言ってって、違う

「あ、あなたがやるんですか?」

「はい?ああ、大丈夫です、免許持ってますし、というか店長てお父さんなんですよ」

ヌナー、なんでこんな、でかい娘を持ってんだ、娘を
っつうか、娘が髪切るのか、おい、大丈夫か、っつうか床屋だぞ
流行の美容院とかと違うんだぜ、男臭さ爆発のこのジス イズ 床屋な雰囲気がだなぁ
いや、そうでもねぇ、娘って俺より明らかに上じゃないか、いや、お姉さんちょっと待ってくだ

「じゃ、早速いきますねー」

しゅわしゅわしゅわ
有無を言わさず、霧吹きが頭にかけられた
ああ、まぁ仕方ないか、しぶしぶ思いながら
髪を任せることにする、床屋に通う客ってのは髪型に五月蠅くはないが
いつもと違うと、非常に気にするタイプが多い
かくいう僕が間違いなくそうだ、しかも今日は暇つぶしで来たというのに・・・
おどおどしていると、鏡に映る陽気な姉ちゃんはてきぱき仕事をしている
おお、うまいうまい、しかし、全然面影がない、本当に親子か

「意外とくせっ毛なんですね」

「やー」

「結構来てもらってるみたいで、いつもありがとうございます」

「ぃやー」

「というか、アレですね、お客さん折角だから、ほら、ちょっと伸ばしてみません?」

「えー」

「いや、絶対似合いますよ、っていうかうちのお父さん、一度決めたらそれしかしないでしょ、まずいですって」

「そ、そうかな」

「そうですよ、ほら、今日はちょっと私に任せて、ね、はい」

「いや、ちょっと子供扱いしてませ」

「はい、いきますよー」

「ぇー」

まるで会話にならないが、ステキ営業トークで
ダマされたかのように、さっさと進んでいく
ああ、長い、長いよ、この時期この長さは暑苦しくてダメなんだよ・・・
思うものの、僕は床屋で文句言ったり、かゆいところを言えたりするほど
勇気がない、流されるままに長い髪で仕立てられてしまう
まぁ、もともと短いからそんなにならないんだけどもな

「学生さん?」

「はぁ」

「何歳?大学生なんですよね?」

「ああ、19です、まだ二十歳なってないんですよ」

「うあ、あたしより若いのか、そうですか」

敬語とタメ口をいったりきたりしながら
お姉さんは神妙に俺の頭を整えていく
しゃくしゃくしゃく、丁寧なカットの音が耳に気持ちいい
ああ、床屋って眠くなるよな

「あ、ごめんなさい、あんまり喋って、髪いじってる時寝る人なんだ?」

「あ、ち、違いますよ、んなわけじゃ」

「そう・・・・ああ、長いのは最初慣れないかもだけど、髪切る回数増えるからいいんだよ」

「え、なんで」

「まぁ、長さあんまり関係無いけど、常にこざっぱりしておかないとキマらないからね」

さくさくさくさくさく
手早い音が、頭の後ろくらいを通っていった
僕は髪を切ってもらってる時は、いつも目をつぶる
鏡ごしに、目が合うのが嫌だし、こう、音を聞いてると気持ちがいいから
そう、そうなのだ、断じて、お姉さんと視線が合ったらどうしよう、きゃ♪
とか、バカ臭いことに対する言い訳ではない、違うのだ
僕のスタイルだ

「でも、結構多いよね、来てる回数」

「ああ、二週に一度くらいかな・・・・・・珍しいですか?」

「ううん、そういう人は大歓迎ですから」

にやり、鏡越しに目が合ってしまった
どきっとするが、別になんてことはない
ちょうどカットが終わったらしく、襟首のあたりにクリームを塗りたくられる
くすぐったくて、これがまたすこぶる気持ちがいい
そうだ、床屋を選ぶ理由はこれだ
顔剃りとか、こういうカミソリ芸がステキに気持ちいいからくるのだ
断じて

「寂しがりやさん?」

「ち、違」

「あ、動かないで、危ないですから・・・」

急に小声で喋りかけてきた
なんだこのお姉さんは、そ、そうじゃないんだぞ、寂しいのを
なんとなく癒されるために床屋で頭いじってもらうなんて、そんなこと、っつうかなんだ
僕をその気にさせて、いや、その気ってなんだ
うぉ、て、あ、な、なんか答えないとい、いけな、あ、う

「なんか錯乱してる?」

「し、してません」

「床屋というか、こうやって顔とか頭いぢられるのって気持ちいいものね、なんとなく暇だと来ちゃうんでしょう」

「そんな」

「いいのよ、その気持ちはよくワカリマスからね」

「・・・・・」

黙ってしまった、というか
首筋を撫でるカミソリの気持ちよさに負けた、許されるなら
いや、俺の皮膚が鋼鉄よりも堅いのならば
一時間だって、このカミソリ芸に付き合っても構わない
というか、それくらいしたい、そう思うくらい気持ちがいい
まして今日は、なんかわからないが、うら若い娘さんだ
うああ、なんだか、むやむやしますですよ?

「はい、倒しまーす」

言うと、イスが後ろに倒される
そして今度は顔剃りになる、これがまた、凄まじく気持ちいい
もみあげは自然で、眉毛の下は剃る
この二つのキーワードを伝えておくだけで
あとは、ふんだんにクリームを塗られた顔中を、そりそりと
カミソリが撫でていく、うおぁああ、き、気持ちがいい、この
むずむずする感じ、デコのように広いところは一度に、すーっと
頬から首筋にかけては、デリケートにすーっと
そして、唇の上、下、鼻の下、そういう細かいところでは
カミソリの細かい芸が、ああ、どれもくすぐったくてたまらん
というのを、味わいに来ているのだが、今日はさらに

「カミソリ、普段はいいの使ってないんだね、肌が負けてる、可哀想」

すいません

「しかし、びっくりするくらい安らかな顔して顔剃りされますね、お客さん」

すいません、気持ちいいんです

「こっちもやりやすいですよ、人によるとやたら動くからアブナクって」

動く気持ちもわかりますよ

顔剃りの時は答えられないから、僕の台詞は心の涙だ
僕と心の会話のキャッチボールを営みながらお姉さんは、決められた動きを続けていく
すー、すーと顔をカミソリが撫でていく、合わせて
お姉さんの指が顔を少しずつ伝っていく、なんだろう、なんだろう
凄くなんだか、イケナイ心持ちになってしまいますよ
なんですか、僕が悪いんですか、仕方ないだろうそういうもんなんだから

「他人の顔をふにふにする機会ってあんまり無いでしょ?されるの気持ちいいけど、するのも結構ね」

「そうなんですか?」

「夢与えてみましたよ、若い男子に」

「嘘かい」

「さ、顔剃り終わりました」

なんだこの女
ちょっと思ったが、まぁ良いとしよう
ちなみにフルコース(カット、襟剃り、顔剃り、シャンプー)で、40分くらいなんだが
このカミソリ芸の時間は5分くらいだと思う
計ったことがないのでわからないが、一瞬だけで、まぁ、たまんねぇのなんのって
ばたんばたんと、一人悦に入っていると、イスが起きあがり
目の前で洗面台がじゃーじゃーと泣き出す、今度は頭を洗って貰う
これがま

「はい、じゃぁお願いします」

早いなおい、台詞途中ですよお姉さん
ちょっと思ったが、さっと頭を差し出す
少しずつ撫でるようにして、お姉さんの指が頭にまとわりついてくる
おおお、頭撫でられるのが気持ちいいのは先刻、人間ならば承知のことだが
この頭を洗われるというのもまた、他人の指で頭触られることが
多分気持ちいいんだろうが、床屋はまた格別だ
おそらく、床屋の試験かなんかで「気持ちのいい洗髪」というのがあるんだろう
でなくちゃ、こんなにいいわけがない
マッサージをかねているように、ゆっくりさっぱりと
また、無闇やたらにトニックが利いて、頭がつんと涼しくなる
安そうなシャンプーもステキだ、極楽極楽

「かゆいところないですかー、ないですねー」

答えるまでもなく、お姉さんはさっさと
頭全体をがしゅがしゅと洗ってくれる
目をつぶって、よーく意識を集中させると
なんとなくお姉さんの指一本一本の動きがわかる気がする
頭をはいずり回る、それ、ああ、気持ちがいい

ぱたりぱたりぱたり

これも終わった、この至福の時間は本当
40分に凝縮されている
頭の奥まで染み込んだ水が、頭皮を撫でながら
ずるりずるりと、生暖かくなって伝ってくる
これもそこそこ気持ちいい
わしゃわしゃと、お姉さんが髪をふいてくれる
顔もふいてくれる、でも、その後
自分で顔を洗わせてくれる、これはこの店だけの気遣いだ
他は、全て理容師がやる、唯一、お客が好きにできる時間

「・・・・・・・・・癖?」

「な、なにが?」

「いや、顔、二度洗うの、珍しいなって」

言われてみると、確かに
いつだって顔を洗う時は、二度洗うんだが
まぁ、そんなこたぁ、どうだってよかろう、思う
思うのでそのまま、タオルを受け取る
柔らかい感触を顔全体に与えて、そして

「では、仕上げを」

ちぃき、ちきちきちきちき・・・・・・ちきちき・・・ちきちき
細かい鋏の声が聞こえる
お姉さんは、何度も僕から離れたりひっついたりしながら
鏡に映る作品を眺めている、そして気になったところを
ちくりちくりと、鋏で仕上げていく、この音が
刃と刃がこすりあう、あのどくとくのざわり感が
耳に届いて、ようやく終わる

なんだか満喫してしまった

「はい、お疲れさまでした」

「・・・・・・・・」

「どう?長いのも、整えたらいけるでしょう?」

「うん」

なぜか、わざとらしいくらい
お姉さんは僕の横に顔を置いた
鏡に映ったそれが、写真みたいで恥ずかしい
でも、なんだかこう、ああ、今日休みで、そして、余暇にこの行事を選んでよかった

ちん、最後にレジスターの前で会計を済ませる
レジを打つのもお姉さんだ、考えようによっては、40分間はお姉さんを借り切っていた
いや、もっと深いなんかあった気がするくらい、よかった
お金を渡して、釣りが帰ってくる
お姉さんは、にこにことして、余裕のある表情
僕が淡くなってるのを、見透かしているみたいにして、笑顔で言う

「ありがとうございました、また来てね」

「は、はい」

からんからん
来た時と同じ音で、扉が鳴った
ありがとうございましたー、扉の向こうから声が聞こえた
なんだか満喫してしまった
長い髪も、悪くない、そう思った

エロいと髪が長くなるの早くなるってよ

昔から伝わる都市伝説について
真剣に検討しはじめている、休日の午後の僕がいる
なんてことだ、エロいと髪伸びるの早くなって
早くなったから床屋行くと、お姉さんが色々してくれて(髪切って洗ってくれる)
またそれを考えるとエロくなって・・・・
おおお、しまいに僕ってば、3日に一度くらい床屋行くんじゃねぇのか?
いいよな、床屋安いし、2000円だし
とか、思ったりしながら、夕飯に特売品を食べてみたりする

ただ、僕は19歳で
そろそろ二十歳になるくらいなので
まぁ、だいたいオチは読めてる
というか、世の中そんなことはない
多分、あのお姉さんには会えないし
会っても、何もない、あるわけがない
わかってる、わかってるよ

ぐだぐだの休日の夜が終わる、うまくつぶせたほうだろう

で、数日後にすれ違ってしまうわけだが
まぁ、戸惑う僕は、久しぶりを通り超えて
初めてかもしれないとかいうほど、バカを見て
そして待ちこがれた二週後の休みに床屋へ向かうわけだ

からんころん

「へい、まぁいどっ、前回は悪かったな、俺居ねぇときでよぉ」

ち、違うマスター、違うんだアフロマスター
た、確かにあんたも、あんたも

「まぁ、座って、お、なんだ髪伸ばすのか?」

「ああ、娘さんに、す、すすめられて」

「あんたもアレだな、押しに弱いな、まぁいいがよぅ」

「・・・・・・で、今日、娘さんは?」

「?ああ、卒業旅行だっつって、どっか外国行ったよ、外国」

「んなアバウトな」

「まぁ、なんだろうな、アフロとかドレッドとかそんな頭の国じゃねぇか?あいつ好きだし」

「ふーん」

「で、今日はどうする?伸ばすのか?」

アフロマスターは、かっこいい
僕はそもそも、このマスターをかっこいいと思ったからここに来たのだ
それをこの会話で思いだし、噛み締める
うちの親父より歳が上だとは到底思えない
イカス親父、こんな親父になりてぇ、そう思ってここに通っている
だからだ、決してこの答えは、ソレを想定してじゃない

「アフロ」

「・・・・・・・・な”!?気でも触れたか」

「いや、マスターしてんじゃん」

「お前、バカ野郎、このファンキーな頭にどんだけの」

「いいんだよ、そのタメに伸ばしてんだよ」

「娘に言われたつったじゃねぇか、今のお前の長さじゃ、パンチになって終わるよ、バカ」

「えー」

「まぁ、その心意気は買った、とりあえずそれ用にやっとくぜ」

「お願いします」

「おう」

ちり、鋏が鳴る
腰にかけた鋏セットが躍る
かっこいい親父だ

「兄ちゃん、しかしな」

「?」

「もう少し、色々知ってきたほうがいいぜ、なにごともな」

その言葉が何を示したかはわからない
ただ、アフロがかっこいいのと
それに携わる、むしろ、それを従えるかのような
両の目が、前回同様、目を閉じるのを忘れた僕の視界に
鏡を通してやってきた

アフロのこの親父が好きだから
僕は休日をここで過ごす
そして、アフロを目指す

断じて、娘さんをヨメに欲しいからではない、と、言うべきか言わざるべきか
今の台詞で迷ってしまう

休日が凝縮した40分が始まるよ







もどる

何かを変えたいと思う時に
なんか違う行動をしようとするんだけども
うまいこといかないのは
多分、規範を超えていないからであります

そんなわけで、今回も
色々と錯誤してみましたが
まぁ、誤ばかりが目だっており申し訳ございません

駄文、長々失礼いたしました
R(04/07/12)