姉SS
イート ザ キャンサー
「居てる?」
「居てますよ」
「よかった」
「なんですか、姉さん、こんな遅くに」
「ちょっとカニが手に入ったから、食べようと思って、ほら一人じゃ無理じゃない、こんなでかいの」
わしゃ、
「これまたごっついカニですね・・・どこで売ってんですか、こんなの」
「舞鶴で買ってきたのよ、予定狂って、思わず」
「思わずて」
「だって、仕方ないじゃない就活で舞鶴行って、一杯引っかけて帰ろうとするあたしの前に
こんなカニが、わしゃわしゃ動いてんのよ、買わないでか、JRの陰謀だわ、間違いなく」
「舞鶴でなんの面接だか知りませんけど、思いっきり衝動買いじゃないですか・・・まったく」
「と言いつつ、ちゃんとカニゆでる仕度してくれる所が流石ね、あんたこそ、どこでそんな鍋売ってんのよ」
「土鍋は一人暮らしの必需品ですよ、凝るんです、使い込んで育てるんです、味が染みて僕風になるんです」
「男ってそういうの好きよね、革ジャンとか盆栽とか、俺色って奴」
「例えがおかしいですよ、ほら姉さん、とりあえずやりますから貸してください」
「お願い」
がこん、
「ところで入るの?」
「僕もこんなでかいカニ扱うの初めてですからね、とりあえず昆布でダシとってぶった切って煮ます、鍋にします」
「冬はいつもお鍋ね、仕方ないから、日本酒を進呈してしんぜよう」
「姉さんが飲みたいだけじゃないですか」
「いけなくって?」
「御勝手に」
「じゃ、取ってこよぅ」
ばたん
「ただいまー」
「早っ、というか、ただいまは違います、ここは僕の部屋です、何度言ったらわかるんですか」
「うるさいな、ステキなレディが訪れるというだけで部屋の価値が上がるの知ってる?」
「上げたくもありません、まったく」
「さて、できるまであたしゃ、レポートを」
「部屋でやってください、なんなんですか、僕だって」
「黙って、ほら、カニが逃げる」
「うわぁっ、このっこのっ」
ごつごつ、きゅー
「まったく、僕だって今週中に提出のレポートが・・・」
「まだ2年生でしょー、大丈夫よ単位の一つや二つ、あたしなんて1年、2年に学校行ってたかどうか」
「どうして、それで大丈夫なのかなぁ」
「院生までキたらわかるよ、来年は、あたしも実験ばっかで大変だけど」
「単位、いつ取ったんですか」
「企業秘密、3年の前期までに終わらせておくのが得策よ、その後の就活に響くしぃ」
「話のつじつま合わないですよ」
「要領よ要領、まぁ、抜くところは抜いて、頑張る所は頑張る、生活全てにおいての基本ね、ほら、メモりな」
「はいはい」
ぐつぐつぐつ
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねぇ、ヤマトシロアリの社会性構造についてなんだけどね・・・」
「いきなり、修論のテーマをふらないでください、僕、昆虫専攻のつもりないんですから」
「またまた、絶対ハマるってば、というか君みたいなトーヘンボクは、結局他に行き手がなくなって、昆虫研入り」
「決めないでください」
「あら、来年、私と一緒に研究するつもりでしょ?でなきゃ、おかしいよね」
「おかしいのは姉さんの方ですよ、僕の将来を勝手に決めないでください、アパート近いだけじゃないですか」
「残念、そうよね、所詮アパートの鍵貸しますよね」
「例え間違ってますってば」
「ほら、またカニ逃げてる」
「うわぁっ」
ごんっ、がつんっ
「ほら、まぁ、鍋は鍋で涌かしておいてさ、あんたもこっちで飲みなさい」
「レポートはどうすんですか、ていうか修論の中間報告でしょう」
「レポートなんてのは、酒呑んで勢いで書くもんよ」
「いい加減だなぁ」
「君が几帳面すぎるのだ、ダメよ、いい加減に京都ってのに慣れないと」
「僕は関東人として生きていきますから、ご心配なく」
「あによ、冒頭でちゃっかり関西弁喋ってるくせに」
「お姉さんのが伝染ったんですよっ、ていうか、姉さんだってもともとは北海道じゃないですか」
「るさいわよ、るさいべさ、るさいやー」
「とってつけたように棒読みしないでください、もう中途半端に関西かぶれで・・・」
「折角京都で『学生さん』してんだから、もっと馴染まないともったいないよ」
「まぁ、確かに社交性が低いのは認めますけども」
「そもそもその口振りがいけないのよ、そんなんじゃ、シンプクサイカン行けないよ」
「僕、あそこのラーメン嫌いなんです、ダイイチアサヒ派ですから」
「やーねぇ、天一の本店とか今度連れていかないといけないわねぇ」
「だから、こってりとかダメなんですって、しかもガラ悪いし」
「ダイイチアサヒだって同じようなもんじゃない」
「もうラーメンの話はいいです、それよか、姉さんレポートいいんですか本当に」
「あー、というかさっき聞いたじゃない、ちゃんと答えてよ」
「テーマが抽象的過ぎて僕には答えられませんよ」
「あら、生意気なコトいうのね、だからダメなのよ、ダイイチアサヒなのよ」
「それは店主に怒られますよ」
「何云ってんの、北白川のラーメン通りをハシゴしたあたしに言わせたら、その程度で怒るような店主なんざ」
ぐらぐらぐら
「うおあ、鍋が」
「おー、おダシの良い匂いがするねぇ、いい感じよ、匂いだけでお酒が進むわ♪」
「無くても飲んでるくせに」
「言うわね、っていうか飲みなさいよ、飲んだ上でちゃんと質問にコタエナサイ」
「はいはい、わかりました、コップこれ使ってください」
「わーい、ということでとりあえず君にしんてー」
とくとくとくとくとくとくとくとくとくと
「ちょちょちょ、何、なみなみに注いでんですか、日本酒ってそんな風に飲むもんじゃないでしょう」
「あら、いやだねこの子ったら、日本酒つったら、コップを升に入れて溢れるほど注ぐのが礼儀じゃない」
「どこの立ち飲み屋ですかっ」
「ん、近鉄の横の」
「ここは僕の部屋です、名店街じゃありませんっ、もう、あー、こぼれるもったいないもったいない」
「近名には立ち飲みなんて無いわよ」
ごいごいごいごいごい
「あーもう、お願いですからじゅうたんにはこぼさないでくださいよ、匂い取れないんですから」
ごくごくごくごくごくごくごく
「しかし、いつ見てもあんたの飲みっぷりは凄いわね、本当、鬼のように強いわね」
「姉さんだって、体内を流れる血が焼酎の梅割りで出来てるんでしょう」
「ワインよっ、あんたって子は・・・・・」
「で、なんですって?」
「あー、このデータなんだけどね」
ことことことことこと
「あら、いい音してきたじゃないの、カニも逃げてるし」
「うそっ、うわっ、もうっ」
がいんっ
「そろそろ茹でる頃?」
「ですね、ばちーんと切って、ぶつ切りでいいですよね」
「食べられたらなんでもいいよ」
「了解です」
がちん、がちん、がちんっ、どぷ
「豪快というよりは、適当よね」
「男の料理ですからね」
「似合わない台詞だわ」
「はいはい、さて、あと10分くらいですから、あんまりペース早めないでくださいね」
「そう言っても寒いから、進んでしまうのよ」
「姉さんも、本当、よく飲みますよね」
「好きだもの」
「違いないです、それに似合いますしね」
「・・・・・違うわよ、好きっていうのは、君のことだよ、君と飲むから進むんだよ?」
「・・・・・・・・・姉さん、飲み過ぎ」
「過ぎてません、この程度じゃ・・・・・・・何度も言ってるじゃない、私は、あなたのコトが好きなのよ」
「・・・・・・・・・」
「だから、わざわざカニ買ってきたりして、気を引いてるの、いじらしいと思わなくって?」
「そんなセイラさんみたいな口きいてもダメですよ、からかうのもいい加減にしてください」
「そういうんじゃない、ないんだよ」
「・・・・・・・・はぁ、僕も一杯くださいよ」
「うん、でもね」
「わかってます、ちゃんと質問には答えます、カニももうすぐ茹で上がります」
「うー」
「姉さんは、本当、分かり易いですね」
「なにがよ」
「いや、酔ってくると言葉遣いに出るから・・・・そういう所、かわいいから僕は好きですよ」
「あら、相思相愛ね」
「・・・・・・・・・・・・そうですね」
「なんで含むかな、と、そろそろ?」
「ああ、早い気がしますけど、いい塩梅みたいです」
もわり
「おお、おいしそう、であであ」
「いただきます、あ、醤油とかは勝手に使ってください」
「ん、ん、ん」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・カニは、失敗だったね」
「そうですか?美味しいですよ」
「黙ってばかりになるものね」
「・・・・・・・そういうものですからね」
「恋人同士じゃ、食べないよね」
「・・・・・・・・・そうですね」
「気を付ける、今度は、ね」
「・・・・・そう、してください」
「うん♪」
「そんな可愛い声出さないでくださいよ」
「好きなんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕じゃなかったら、殺されても文句言えないですよ」
「そんな物騒じゃないわ、きっと、そうじゃない」
「物騒ですよ・・・・・・僕の気持ちは、けっこうキてるんですよ」
「そう?」
「どれだけ膨れ上がってることか、今度、食べさせてあげたいくらい」
「ステキな表現、好きよ、そういうの」
「悪性の腫瘍だ」
「なら、いつまでも膨れ続けるのよね、焦がれて、一途に」
「・・・・・・そう、意志に関係なく、止められないんですよ」
「・・・・・・・・・苦しいの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は、そういうの、好きだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・ねぇ、カニは無くなったよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・大好きです、姉さん」
「・・・・・・うん♪、食べてあげるよ」
ぎゅぅ、
姉さんは、男にフられる度、僕を使い棄てる
キャンサー=ガン
全然足りないけど
僕の実力じゃ、この程度になってしまう
消耗される品としての男を書きたいデスネ
駄文失礼いたしました
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