姉SS

ギフト ギブ ペイ


「え、ワリカンにしようよ・・・・・・わ、悪いよ・・・」

むべもなく、僕はお金を払った
レジのガガーという音が古くさくてなんか良かった
不安そうに僕の横には、さっきまで一緒に楽しく食事をしていた女の子が居る
説明すると、ショートカットで背は僕よりも低い、少し気が強そうな面もちの
多分、誰に聞いても可愛いと答えられる女の子だ、同級生

「な、なんか悪かったな・・・・・・・ね、本当にいいの?」

不安そうに聞いてくる、どうしてかなぁと
少し考えてから、ひょっとしてと思った所を聞いてみる

「僕が奢るのは当たり前だから気にしないで、別にこれでどうこうしようとか思わないし」

本当は、思えないし、が正しい
僕の台詞は、むしろ刺激してしまったのか、あるいはその状況を予感させてしまったのか
更に女の子を固くさせてしまった、困ったなぁ、そんなつもりは無いのにと
少し戸惑った顔をして、仕方なく説明してあげることにする

「女の子と一緒に食事が出来た、そういう時間を与えてもらった事に対する
当然のペイだと僕は思ってるんだ、だから気にしないでよ、本当だよ」

「え・・・・・・・・」

大きく目を見開くと、驚いた様子をしばらく彼女は続ける
どうもこの子もそうやって考えられないタイプなんだなぁ、困るなぁと僕は
戸惑いをさらに表情で大きく伝える
この考え方が当然だと思ってる僕からすると、彼女のようなタイプは
苦手になってしまう、こうなると厄介で、

「だって・・・そ、それじゃぁ、なんだかお金で買われたみたいじゃない、イヤだよ」

「・・・・・・・・・・・」

僕の表情は困ったままだ
みんなそう言うけど、そんなつもりは当然無い
これが礼儀というか、たしなみみたいなモノだと思ってるんだけども
どうしてもそれが伝わらない、この子は厄介な女の子だ

「だって、可笑しいよ、そんなの・・・・・・等価のはずじゃない、ほら、私も楽しかったし
なんていうか・・・・うん、ともかく変だよ、ダメ払うっ」

「違う違うってば、いいんだってばっ」

がやがや揉めてるウチに駅まで着いた、彼女を見送る
本当は送ってあげるのが僕の本領だけども、そんな事した日には
いよいよ大変な事になりそうな気がするので、今回は諦めた
疲れたな・・・・・・・
ぐったりして、帰りがけ、いつもの酒店でワインを買って家路を急ぐ

「おー、くろこー」

黒猫のくろこが、にゃーと鳴いて愛想良くすり寄ってきた
彼女はこうして人からご飯を貰っている、これも彼女からしたら
それを得るための行動なんだ、僕はそういう現金な所が、猫のいい所だと思ってる
プッシィとか決していい意味で使われたりしないけども
子猫や、雌猫は、ずっとずっと価値を考えて生きている動物だと思う

美しいモノは存在自体が報酬だから、等価の何かを与えなくてはならない

僕はこの言葉を、中1の時に、この扉の向こうの女性から教えてもらった
扉の向こうの女性は、年上のお姉さんだ、本当に価値のあるモノを
たくさん僕に教えてくれて、それを守って僕は彼女の中で
宝石まではいかないにしろ、何かしらのペイを与えられる自分を作っている

ワインは彼女の好物だ、赤も白も、問わずに呑む

「ただいま」

「あ、どうだったの?」

「どうもこうも・・・・・・また、ああいう女の子だったよ」

ため息混じりに僕が告げると、楽しそうに笑って彼女は
ワインの栓を慣れた手つきで空けた、ソムリエがどうのというわけでもないけど
実にうまく封を切る、そんな仕草も美しいと思わせる彼女は
多分、どんなに尽くしても足らないくらいの何かを与え続けているんだろうな

「ぼんやり?」

「うん・・・・・お姉さんが綺麗だから見とれてた」

たぷたぷとグラスに赤い液体が注ぎ込まれて
グラスの中が、価値で満たされた
こういう考え方を何時からするようになったのかもう忘れた
気が付いたら

価値があるか、無いか

それだけが、世の中の全てのように思えてきた
注がれた液体が、お姉さんの中に入っていく、特になんとしたわけじゃなく
水を呑むようにして喉を通している、僕はその姿をじっと見て
このところ頭にとりついている事を少し考えた

「考え事?悩みなら聞いてあげるよ?」

「うん・・・・・もう少ししたら聞くよ」

僕はじっとお姉さんを見つめた、お姉さんはそんな僕の視線など
気にしないで、とりあえずワインを二杯身体に吸収させた
まだ酔った風はないし、そんな所は、芝居のような節でしか見たことがない
ま、それはいい
問題は

どうやったらこの人と付き合うことが出来るのか、だ

このところずっと考えてるが、なかなかどうしてどうにも
釣り合うようにならない、とりあえず経験が足りないのかもと
いろいろな女の子と、それなりの付き合いをいくつかしたけど
それは、なんだか、経験することによって、何かをすり減らしているような
危機感にさいなまれて最近は辞めていた、今日は気まぐれだ

あの子から誘ってきたし、初めてだった、よく考えると、誘われるのは、他動的なのは

「随分難しい顔・・・・・・・似合わないわよ」

「そう?時にはそういう顔したほうがいいでしょ?」

ふふんと微笑って、生意気な仕草でお姉さんを煽った
その下の下まで見透かしたように、お姉さんは誘いに乗らないし
むしろ綺麗に流してしまった、二言くらいで、さらりと僕がどんなに幼稚なのか
イタイくらい思い知らせた、だけど、追い込まない、その前にそっと背中を押すように
僕を、攻撃範囲内、から遠ざけてる、僕は振り向いて彼女の場所を確かめる
少し遠い、だけど二歩近づいたら、また攻撃範囲内に入る
僕という存在が、彼女の支払うモノに耐えられなくなる、何かが足りない
自分に足りないのは解る、お姉さんに余ってるのも解る

だけど、それが何かはわからない、だから、付き合えない、うまくいかない姿が転がる

「むーーーーーーーー」

「??・・・・・・・・随分深いのねぇ、そんなに今日の子、お気に入りだったの?」

「ち、違うよっ、そんなんじゃ、ぜんぜんないよっ」

僕が慌てて否定する、それを見ると子供をあやすように
お姉さんがそっと僕のおでこに触れた、少し冷たい手の平が
するりと額をなぞって、そして頬へと下る、ああ、ダメだ、僕は

落ちる

「お、ねえさん・・・・・・・・」

「どもった」

「うん・・・・虜って、きっとこういう気持ちなんだね」

「光栄ね」

静かに唇が重なった、もうダメだ、幸福が内側から外側から
ともかく僕を浚って溺れさせる、凌げない、かわしきれない
また、与えられるだけになる

与えられる事の快楽は、お姉さんから教えて貰った、だから与えないといけないと思うようになった

ぴくぴくと僕が両手をわななかせてる
お姉さんは、気にしないで僕の唇をどうにかして、そして
ゆっくりと引いていく、お姉さんの髪が僕の顔をなぞる、惚ける、じんじんする何か
アツイものが頬を火照らせて、赤くしてるのが解った、そして感じる口惜しくない敗北感

「・・・・・・・・・・・・ダメだ」

「なにが?」

「お姉さんと、どうやっても付き合えないんだ」

「どうして?」

「釣り合わないから、背伸びとか、ともかく幼稚でもなんでも出来るだけ、考えられるだけの
全部を尽くしたけど、足りない、届かないんだ・・・・・・・・どうしてだろう、なんなんだろう」

「なんだろうねぇ」

僕がカウチにずぶりと溺れて宙を見ながらそう呟くと
しっかりと会話として僕の言葉に、ちゃんとストライクを投げ返してくれる
だけど会話をしてるけどお姉さんは、僕を見ていない
今は、残ったワインをワインセラーだかなんだかに仕舞っている

「どうやったら、お姉さんの喜びを与える事が出来るのかな」

「与えるはイヤな単語ね、贈るとかのほうがいいね、とりあえずそこからかな」

「・・・・・・・・・・なるほど」

そう言えば、あの子もあんな風に執着しなかったかな
ふと、ショートカットの八重歯が僕の頭をかすめた、悪いコトをした気になった
ぎぃとカウチを軋ませて、姿勢を正す、視線をあらぬ所から
ある所へと移す、枡を持ったお姉さんを捕まえる

「??」

「まめまきしようか」

ぱらぱらぱら
言うとお姉さんの手から、マメが飛んできた
きょとん顔で僕がそれを受ける、お姉さんはふんわりした感じで
更に僕にマメをぶつけた、ちょっとして僕の座ってる所にマメが溜まってきた
それを握り返して、投げ返した

「節分、ちゃんとマメ食べないとダメよ」

「ちゃんと食べてるよ、太巻きだって」

「太巻きはいいのよ、別に」

「え、なんで?」

「あれは寿司屋の陰謀なんだから」

「・・・・・またまた」

「そうよ、私が子供の時って、そんな風習無かったもの、ここ数年じゃないかな、ダマされてるのよみんな
躍らされてるのよ、全国の寿司屋に」

お姉さんはさも恐ろしい事のようにして、節分に対して僕に諭した
バカな話だなぁと思いながら、それでも楽しくそれを聞いて過ごした
すぐに時間だ、もう出ないといけない

「帰るね」

「そうね、ワインありがとう」

「鬼の役もね」

くすくすと二人で笑いあって、僕は玄関を出た
振り向くけど、もう既に扉は閉まってる、ため息みたいなのを一つついて
家の道を急ぐことにする、どんだけ考えてもやっぱり、等価になれない事を
また考えて歩いた

何が足りないのか、どうしたら足りるのか

その僕の向かいから、それらが全て足りてる男が過ぎていった
何がどうを知っていて、だから、彼女に何かを与える事ができる
つまりは、そういう男が僕が出た方向へ向かった

じっとそれを睨み付けるようにして見ていたけど
気に掛けられることもなく、男は玄関の向こうへ行ってしまった
バイクに乗った男は嫌いだ、僕がもう一つ覚えた事かもしれない

「ねぇっ!」

「え?」

「え、じゃない、探した」

ぶっきらぼうな台詞で僕を扉から更に離した
素の状態で出る、無意識の「え」という疑問詞が無防備な僕を
一層哀れに見せる、その犯人が目の前に居る
不思議と

「ショートカットに八重歯の女の子だ」

「状況判断なんてしなくていいの、ねぇ、やっぱりさっきのオカシイ」

またか・・・・・
僕はうんざりの思いで、苦い顔をした
すぐに思ってる事を表情に出すのは良くないのかと
思う時もあるが、口で言うのが苦手な分そのほうが伝えやすいだろう
とか、それは今、どうでもいい、なんでこの子がここに

「やっぱり変だし、なんだか気持ち悪いから払いに来た、受け取ってよ」

「違うんだって・・・・・えっと、そう、僕からの贈り物なんだって」

ごちんっ

「イタっ」

「お金贈るなんて、政治家じゃないんだから、わけわかんないっ、お小遣いあんたから貰う筋合いもないっ」

三倍がなり散らされた
ぎんぎん耳が鳴る、僕がひぃと情けない声を表情で表す
さらに追い打ちかけるように女の子は僕に言い続ける

「ともかく変なんだからっ、っていうか、なんかお金で全て解決しそうなその雰囲気がそもそも」

「わー、ごめんなさいごめんなさい、そうじゃないんだけど、うん、だけど、ごめんだから」

「ムカツクーーーー、そういうの一番イヤ、とりあえず、はいコレっ!!!!」

「????・・・・・・なに、これ」

「ち、チョコレートよ、いい、受け取ってよっ、捨てたら承知しないから」





もう

本当、何がどう足りなくて、どう足りてるのか、さっぱりわからない

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