姉SS2

ライヴハウス クイーン


俺が辞めない理由は単にもめないからだ
女王ともめるほどのヴァイタリティが俺には無い
女王の否定に抗うような力が涌く何かが無い
・・・・・・・女王と決別するだけの自分に対する強い想いが無いのだ

「やってられっかよっ!!!」

だむっ!・・・・楽器が鳴らす音ではない、下品なただの衝撃音が楽屋に響いた
やれやれと俺は、今日演るはずだった曲のドラムラインのMDを止める
バンドのメンバー全員が楽屋でスタンバイしている所だ
先ほどの声の主が、怒りを露わにして女王に詰め寄る

「てめぇ・・・いい加減にしろよ!?俺はなぁ、てめぇだけのために弾いてんじゃねえんだよっ!」

吐きかけるように、怒鳴るだけの声で脅すように女王に向かう
女王は気にした様子もなく、ふーっとタバコの煙を詰め寄る下賤の男に吹きかけて
一言、唄う

「じゃぁ、帰れよ・・・・・あんたいらない」

「!?」

言ってはならない一言だと俺は思うのだが、全くそれ以外に言葉が見つからないといった
感じで女王が、このバンド名になってから三人目の、ギターをクビにした
最初からのメンバーで残っているのは、ベースの俺だけだ
他のメンバー・・・・・いや、ただ楽器を弾ける人達は、皆、何かしら女王の意向にそぐわない部分に触れ
消えていった、消える・・・・・・正式には女王が消していくのだが、その後決まって

「はんっ、こっちから願い下げよ!」

これだ
現在の俺以外のメンバーがその声に、ぎょっとした表情をした後
お互いの存在を確かめあうように、そわそわとし始めた・・・・実は、こいつらも
今さっきクビとなったギターと同期・・・・おかしな話だが、ヴォーカルである女王とベースである俺以外は
今日初めて顔あわせしたという、まったくもってお粗末な、バンドとも呼べないような代物だ

「出番そろそろですが・・・・・・・・」

ハウスの人間が楽屋に出番を告げにきた
やれやれと俺はベースを持ち上げ、ステージへ移動を始める・・・・・
さてさて、今日は、何人がステージにあがることやら・・・
早々に逃げるように俺が楽屋を出る、やや遅れて何かしら口論のようなモノが聞こえたあと
予想通り足音が一つ近づいてくる

「やんなるわね・・・・・・・・っとに、口ばっかで中身の無い奴らばっかっ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・あんたも、もうちょっと喋るとかしたら?・・・・・・・・・つまんない」

女王の言葉に俺は耳だけを傾けて何も答えずに、袖に入る
俺が何も答えないのはいつもの事なので、特に何か起こるわけでもない

俺の脇に、小さな女の子が一人立つ・・・・・女王だ
俺の身長が180cmあるのが問題だと、女王は言うのだが、ともかく小さい
決して数字を口にしないが、俺の見立てでは155cmあるか無いかくらいだろう
小さく、そしてかわいい顔、決して威圧的であったり、そこはかとなくお嬢様であるなどと
そういった感じは全く無い、ごくごく普通の女の子だ・・・・・・見た目はの話だが

『では、本日ラストとなります、「ケーニギン」!』

ステージの方から女王と俺を指す言葉が聞こえると同時に、女王が踏み出す
バンドのテーマがゆるりと流れる中、まだライトの上がらないステージの中央へ移動
俺は、やや脇の方のアンプにベースのシールドを繋げる
軽く音を出し、チューニングだけ確かめる、俺の方など全く見返る事のない女王
一応、用意が出来た事を知らせるため、立ち上がって、第四弦の開放弦

ポーーン・・・・・・・・

音とともに女王が、マイクに手を置いてうつむく、小さな身体が一層小さく見える
俺がゆっくりと弦をつまびく、2フィンガーで力強く弦をはじく
アンプから、ズギンズギンとやや無理をさせている高音のベースソロが始まる
1フレーズ後、ヴォーカル入

「Ok!・・・・・Wake up your mind! Open your eyes Look for the oneself
・・・・・・yes、screaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaam like this!!」

アドリブの台詞、女王が叫ぶ

ドラムもギターもキーボードも無い、ベースとヴォーカルだけのバンドが
持ち時間30分、フルにMC挟む事なく演りきった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ライヴハウスクイーン

ライヴハウスにはメジャー入りを視野に入れつつ、メジャーではない世界で活動を続ける
バンド野郎がそれこそ星の数ほどいる、いわゆるインディーズシーンと呼ばれる世界
わかり易く言うなら、吉本の天素だ(わからんよ)

インディーズシーンの苗床である、ライヴハウス
そこでコンスタントにライヴを行う事を許される「レギュラー」と呼ばれるバンドがある
たいてい、土曜日の夜、ライヴハウスがもっとも盛り上がる時にピンで演る事を許されるその地位

そこに、「ケーニギン」もいた、そう過去形だ

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、このあたしに下りろっての?」

女王がライヴハウスの支配人ともめている、俺はベースを片づけつつ
それをちょっと遠巻きに見守る、小さい体を精一杯大きく見せるよう
胸を張り、きぃっと鋭く睨み付けているがそのかわいい容姿からでは、
大した迫力が生まれるわけもない、むしろ愛らしい

「だからぁ・・・・・・確かに上手いよ、でもね、バンドじゃないからさ、君の歌が上手いのは
認めるけども、うちはライヴハウスだ、ロックバンド主の、そこで正直フィーメイルヴォーカルのみじゃ
客を呼べないんだよ、バンドを組んでくれって何度も言っただろ」

支配人曰く、ケーニギン・・・いや、女王はどうやらもう、このライヴハウスには必要が無いらしい
それもそうだろう、毎回メンバーが違う、しかもまともに音が取れていないようなへっぽこ集団
ヴォーカルしか聞けるものではないようなバンドを看板として売り出すわけにはいかない
ややもすれば、店の威厳に関わる

そのご丁寧な降板説明が女王を逆なでする

「はんっ!、こっちから願い下げよ!」

お決まりの台詞が飛び出して「ケーニギン」はわずか三ヶ月の栄華に終止符を打った
去り際も決して、店に媚びる事なく女王であり続けるその姿勢には非常に好感が持てると
思うのだが(ある種ロックの精神だし)、反骨精神だけで生きていけるほど、世の中は
血に飢えてはいない、なぁなぁだと言われようとも、居心地の好い所が好まれるのだ

女王はこの世界に収まりきる器ではない

と、きっと本人は思ってるに違い無い、俺は普通のベーシストとして、ベースを弾いて
金がもらえたりする職を手に入れられればそれでいいんだが・・・・・さてさて
女王は、俺に目もくれないで楽屋を後にした、苛立っているからと言ってモノに当たったりしない所が
女王の数少ない好いところだ、つかつかとピンヒールを鳴らして闇に溶けた

「あー・・・・・・ちょっといいかな?」

「??・・・・おれっすか?」

支配人がそれを確認してからひょっこり楽屋に顔を出した
煙たいものを見たようなしかめっ面で近づき俺に商談を持ちかけてきた

「・・・・・・・どうだい、君のベースイケると思うんだけど、残ってヘルプで出ないかい?」

「・・・・・・・・・・・・・それは、ここの専属ってことっすか?」

「まぁ、そうなるね・・・・・あまり出番は無いかもしれないけど、どっか
メン募してるバンド紹介してあげてもいいし・・・・悪い話だとは思わないけど?」

なるほど、ありがちな話だな・・・・・・
既にケーニギンは解散したものだと決めつけている支配人
俺と言えば、だいたいベースを弾くことくらいしか取り柄が無い
そこを評価してもらえる所にいられるなら・・・・・・俺の信念は女王のようにきらびやかでも
かっこよいわけでもない、なぁなぁで生きていくどこにでもありふれた人間だ

目指すのはただのベーシスト

「いいっすよ、連絡はいつもの所でいいっすから」

快諾

さして大きな問題とは思わない
女王と俺の間には、俺から見ても女王から見ても何も存在しない
たまたま最後まで残ったベースと、ある種、八紘一宇な女王

次の予定の打ち合わせなど一度もしたことが無い

・・・・・・・・

『本日ラストナンバー、AGUA DE BEBER』

ライヴハウスが熱狂に包まれる
そのステージの右隅に俺の現在のポジションがある
なかなか腕の立つ奴が多いバンドだ、ギター二本、ドラム、そしてヴォーカル
オーソドックスなバンド・・・・・・・・ベースが病欠したらしくヘルプで入る
その後、ベースは病欠でなく逃亡したという話になり、俺がほぼパーマネントなメンバーとなる
新しいバンド、新しい仲間・・・・・・得た地位は、レギュラー
あれからもう、一ヶ月だ

ヴォーカルのまぁまぁ好く聞ける声が俺の横で聞こえる
派手に動き回るギターと、やけにテクニシャンなドラムス・・・・・・嫌いじゃない仲間だ
演る曲は・・・・・・・・・ロックではなく、これはJ−POPと呼ぶべきだろうか
ウケるならなんでもいいかな、なんというか、やんちゃなそぶりをしていれば
それなりにウケるという事を知ってる連中が組んでる、いわゆる、そういうバンドだ

今じゃ、俺もそういうベーシストだ、演ってる途中で笑うし跳ねる、ピックだって投げまくり

念入りな打ち合わせ、毎週火曜と木曜の夜にスタジオを借りて練習
いい雰囲気で音楽を演る・・・・・まさに、バンドだ
話も好くするし、たいていがくだらない話という所もいい

「おつかれー」

「うーっす」

全員に向けて軽く声をかけて、俺はライヴハウスを後にする
やれやれとボロいアパートに戻ってくる、肩から下げるベースがいやに重い
一休みした後、決まり切ったように、余った残りの時間を有効に使おうと
ケータイのメモリを適当に漁る

「・・・・・・・あ、俺・・・・・暇?・・・じゃぁさ・・・」

ぴっ

数十分してやってきた女と寝る
バンドやってて背が高いというだけで
抱くだけの女には不自由しないと、新しいバンドになって初めて覚えた
名前もうろ覚えの顔は大して趣味じゃない女
胸が大きいからそういう時のために・・・・・・
俺がサイテーかどうかは、自分では分からないが、今までに無かった刺激には違いなかった

今じゃモテ系ベーシスト

音楽と女に溺れて抑圧するモノが何もない不自由がない
昔誰かが唄っていた
バラ色とはどんな色なのか?、今ならこれだと言える気がする

・・・・・・・・・・・・・・・

リピート アバヴ ザ センテンス

・・・・・・・・・・・・・・・

ライヴをやって、女とやって
それのローテーションが続く
無味乾燥とは思わない、充分にその日限りの一番の楽しみをこなしていく
恒久的にこれが続くとは思えないが、今が楽しいのでそれでいい

楽に楽に、自分が気持ちいいように

何かが足りないとか思わない思いたくもない
これ以上は要らない、これ以下は嫌だ
今のままでいい、今のままで

モテ系ベーシストの俺にメンバーが話す

逃亡したベースの話、そいつは、
俺のベースはこんな音を導くもんじゃねぇっ
などと吠えたらしい、そいつはすげーなと俺は聞いて笑った

普通のベーシストを目指した頃を思い出す

「かわいい女だった・・・・・・・・・・・・・・・・」

一言呟いて

「見た目は」

と、付け足した

女王
鮮烈な紅いというイメージが純粋に涌く
あの女を抱いたらどんな感じがするのだろう、そういう事をぼんやり考えたりする
見た目だけなら、犯罪が成立しそうなくらい、危うい幼顔
身体とかまじまじと見た事なかったが、あの背の高さだ
それはそれはすらっとして・・・・・むしろ、つるっとしてという感じかな

なによりも

「あの声で泣くのか・・・・・・・・・・」

考えるだけでゾクゾクする
ライヴハウスに来るジャンキー達を狂わせたあの歌声、あの声で泣くのか
ケーニギンやってる時にはそんな事思いもしなかった
女という目で見てなかった俺、というよりも、女で遊ぶ事がバラ色だと知らなかった
そこまで気が回ってなかった、今もし、もう一度・・・・・・・

そう考えて、酷く自分に不快感を覚える
俺ってばそういうベーシストですか・・・・・・・・
久しく感じなかった、何かに対する憤り、罪悪感、さいなまれる感じ

曲を思い出そう、声が頭に響く

それから、ムズムズした日が続く
何かに苛立つような感じ
なんだかわからないが、やたら自分に腹が立つ
気付くと、不機嫌が常になり、女を犯す、でも物足りない

ざらざらする音
ぴりぴりする指先
不安が押し迫ってくる、弦がいつもより太く硬く感じる
きりきりとチューニングを無意味にいじった
今の状態に満足している自分に不満があるわけではない
この感じは全て

電話が鳴って呼び出されたのが22時、俺は約束と言いつけられた所へと向かった

『あー、ベースの?・・・・・・演るから、来いよ』

一方通行、拒否権とか俺の都合とかそういうのは
全く関係無い、その傍若無人なそぶり、他人からは迷惑だが
彼女にはかくも当然の出来事
いつもの俺なら、それにふざけんじゃねぇと一言叫んで
約束など無視してしまう所だが
去りし日に聞いた台詞
「私を中心に世界を回すの、気持ちいいだろう?」

笑える

・・・・身体だけじゃなく、でかくなった俺が向かう

ライヴハウスに着いた、一直線ではなくゆっくりと自分のペースで
俺は客の入りを確かめてから楽屋へ向かった

「遅い」

「・・・・・・・・・結構人入ってるな」

再会の台詞が交わされた楽屋、不機嫌そうな言葉に
俺が気にしたそぶりも見せずいつも通りの台詞
しかし急に顔をしかめると女王が唄う

「何?なんか調子乗ってんの?・・・・・・ダッサーーーーーーーーー、
・・・・・・・・・・客の入り??・・・・・・ガタイに反比例して器、小せぇ」

辻斬りよりも酷いな

いつもの通りだと思っていた俺の台詞がいきなり否定された
別れてから女にモテるように・・・・ではなく
なぁなぁで生きていく為に色々とがんばって
俺が女王と別れてから培ってきた、モテ系ベーシストという存在が
今、目の前で嘲り笑うように叩き壊された感じがする、
いや、彼女からすれば叩くほどのモノでもなかった触ったら壊れたという感じか
別れてからの俺の時間全てが無駄という言葉で片づけられる
・・・人間何人廃人にしたのだろうこの人は

「・・・・・・・・・・・ふふ」

狼狽した俺に女王が微笑う

「カンチガイしてたみたいだけど・・・・・・・とりあえず、演ってたんでしょ?いくよ」

「え・・・・こ、これから?」

「当たり前じゃない、なに?レンシュウしないと出来ないほど腕落ちたの?
・・・・・・・・それとも、客の機嫌伺わないとダメ?」

ああ、これは

「チューニングだけ・・・・・・・・・」

俺はやっぱり、普通のベーシストなんだな

「3分な」

相変わらずの小さな背
あれからと違わない、女王である所に
俺はまた、身の程を知るのだろう

俺がベースを肩から下げると、座っていた女王が手を前に突きだして
目線で立ち上げろと訴える、その手を取る

「さぁ・・・・・・エスコートなさい、ライヴを乗っ取りにいくわよ」

唇を薄く舌で嘗める、あれからどんな世界を征服してきたのか知らないが
女王はやはり女王だ

小さな女の後ろを俺がついていく

「相変わらず馬鹿デカイ・・・・・・・・何喰ってんの?」

「女」

ブラックライトが白い服を妖しく光らせる
鋭く輝く瞳が俺を引き込む

「・・・・・話せるようになったね・・・・・・・・・・・・・・ふふっ、ヤらしてやろうか?」

えっ!

「・・・・・・・・・冗談だ、バーカ」





『ニューカマー・・・・・・・ケーニギン!!!』

スポットライトが女王を照らす、俺のベースが開放弦を鳴らす

女王が唄う、俺が弾く
このスナップショットに、どんな色が着くだろう

俺はまだバラ色を見たことがない


もどる