鍋正月〜ひとりぼっちベイビー〜


ぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつ・・・・・・

鍋が煮える音がする
一人暮らしをしていると、冬の定番となってしまう鍋
適当に野菜を切って、適当に味整えたふりをして
後は蓋をして煮込む、ひたすら煮る、ぐらぐら
こんなに簡単なのに、なんか旨い気がする上、安上がりで
何より、翌日に雑炊にして喰える

無駄が無くて最高、一人鍋は経済にも優しい

りんごーん

「ん?」

鍋が煮える前に、客が来たらしい
呼び鈴がさえずる、が、気付いただけで別に何もしない
鍋が煮えるまでは、もうコタツから出たくない、ただそれだけだ
ものぐさなタチらしく、居留守と言うにもおこがましい姿勢で居る

りんごーん、りんごーん、りんごーん、りんごーん

「るせー」

声にもやる気無し、んでもって別に出る気も起こらない
外は、なんかパタパタと足を踏みならしている音もする
どうやら相当寒いらしい、しまいに、どんどんと扉を叩く音もする
鍵閉めてあるにも関わらず、がちゃがちゃとノブを捻る音が何度もした

「ったく、仕方ねぇな」

ものぐさがようやく観念したように玄関に移動する
そして、鍵を外して、扉を開いてやる

「ちょっと、あんた2002年よ、何してんのよっ、ヤバイのよ、この壺買わないと世界が滅びるのよっ」

「お前の方がヤバイわ」

げんなり顔で玄関先の客を迎えた
色々山ほど言いたいことがあるが、それ以上に会話をするのは
疲れるから勘弁願いたい、そういう事を思わせる客が来た
扉はやはり、なんとしても開けてはいけない
改めて誓うことにした、とりあえず門前払いしようと思う前に
さっさと中に入り込まれた、もう止められない

「何しに来た、正月早々ってのはこっちの台詞だ馬鹿野郎」

「るさいわね、あんたが一人で暇してんじゃないかと思って、こうやってわざわざ
遊び相手になりにき・・・・って、やだ、鍋じゃない♪、よかったお腹空いてたのよ、ちょっと
なに、凄い煮えてんじゃないの、あああああっ、こんなに煮たら、あんた馬鹿っ、お餅が消えて・・・・」

一言喋っただけで既に、三倍は喋られているやかましいのが来た・・・
がっくりしつつ台所へと移動する、先に台所に侵入して、なんかごたごたやってる所へ

「うるさい、お前が来なきゃ旨くいって・・・って、お前、何勝手に醤油足してんだ、あ?」

「ははん、こんな薄味で鍋なんてちゃんちゃらじゃない、なに?あの関西弁眼鏡娘の影響?怖いわねぇ本当」

言いながら勝手に味付けを変えていく、濃いめが好きらしい
透明に近かった鍋の汁が、少し茶色がキツくなった、あんまりいぢられると
翌日の雑炊が危うくなる、適当な所で、どかしてさっさと鍋をコタツへと持っていく事にした

「あら、七味って、普通の?馬鹿ねぇ、山椒がもっとたくさん入ってる、京都で良く売ってるような奴じゃないと
なんていうか、鍋って感じがしないじゃない、辛いだけなら、ほら、一味でもいいわけだしって、聞け、馬鹿っ」

「んあ?皿なら適当に出せよ」

ずぞぞぞぞー

先に入れておいた白玉(うどん)をすする、個人的な話だが
うどんの玉の事を白玉って言わない?ねぇ、うちだけ?(ぉぃ
ま、んな事は正月めでたいので気にすることもなく
鍋を一人わけて喰っている、勝手知ったるなんとやら
さっさと皿を持ってきて言われるようにさっさとそれに続いた

「てゆーかさー、ほらー、駐車禁止で逃げようとしたって気持ちもわかるわけー。
ね、なんていうかイメージって奴?大切じゃない?特に、そういう業界でー、しかも
あの人気なんだしー、それでさー、まぁ、守ろうとしたのは、少なくとも自身の保身じゃなくてー
一種の、全てに対する恐怖?そういう感じでーー、あ、ほら、そっち煮えてる」

ぐらぐらぐら

「だから、お前、何しに来たんだよ」

「何よ、だからあんたが暇してるだろうと思って、こうやって話相手に」

「帰れ」

「やだ、あー、煮えすぎで豆腐がボロボロじゃないのー、何やってんのよっとに」

「聞けよ、なんだ、おい、何があった?なんかあったのか?ああ?どうしたいんだ?」

ぐらぐらぐらぐら

「大変なのよー?ほら、2002年じゃない、知ってる?ふーふの年って言うのよ?」

「ああ、さっき「大花」の漫才で聞いた」

「おっさん臭いわね、なんで正月に家で夫婦漫才なんか見てんのよ」

「で、なんだよ」

「あー、そうそう、ほらふーふってのは二人で一組じゃない?ね
今年は二人ってのがキーワードだと志保ちゃん思ったわけ、だからね、正月を二人で」

「・・・・・・・・・・あかりが、そろそろ」

「あー、心配しないで、あかりはさっき会った時に・・・・・・あら、鍋にこんにゃくなんて入れて
ちょっと大丈夫でしょうねこのこんにゃく・・・変な事に使ってんじゃ」

「おい、なんだ今、こんにゃくの前になんか言ったろ?っていうかそのこんにゃくの話題自体もな」

「なんでもないわよ、ともかく今二人でいんだからいいじゃないの、何?私と二人は、そんなにイヤ?」

「ああ、イヤだね」

「言い切りやがったわね・・・・・・」

「ったく、なんで毎度毎度お前と、こんなとんちんかんなやりとりせにゃならんのだ
別にウチじゃなくても、雅史んトコでも行きゃぁいいだろうが」

ぐつぐつぐつぐつ

「・・・・・・・・・・・・・・」

「ど、どうした」

「だって、雅史は既に、あの変な超能力少女とどうにかなってたんだもん」

「既に行ったのか」

「そうなったら仕方ないじゃない、ね、ほら、あんたらどうせ毎年同じように、同じ人と、同じ過ごし方してんだから
たまには違う事もしないと、倦怠期ってのは怖いのよ?女も色々考えないといけないけども、もっと男の方がしっか
り色々考えて、もっと安心させてくれるような、そもそもさー、ほら、男がしないってのが問題なわけじゃない?
私が思うにわ、これはお互いのー」

「もういい、悪かった」

鍋の中はまだまだ賑やかだ
先日までは、あかりのおせちで食をしのいでいたが
とりあえず七草の時期までは、鍋と併用で行こうと作っただけに
具はふんだんに入っている、腐るとかそういうのは気にしないで作ってあるから
尚更に大量だ、二人でしれしれとそれをつついている

「まぁ、なんにせよ今年もよろしくだな」

「何よ今更」

「一応新年の挨拶はしておかないといかんだろうが・・・・・・・なんで俺から喋ると怒るんだよ」

「うるさいわね、あたしは今、このカニが、カニがね・・・っていうか、あんたなんでカニなんて食べてんのよ
一人鍋のくせにとんでもない贅沢ものね、口惜しい、カニ食い散らかしてやんだから」

いや、それはマジ勘弁してくれ
思っても口には出さず、またコンロに火を入れ直して
少し具を足す、野菜の切れ端が多いが、無駄に生ゴミにするよりはいい
貧乏くさい鍋がまた、少し豪華になった

「わかってるのよ、迷惑かけてる事だって、なんだって
何よりそんなんでも、ちゃんと構ってくれてる理由まで、綺麗に解ってるのよ」

「んあ?・・・・おおっと、鍋が」

じょわー

「同情されてるのはわかってるわよ、あんたが中途半端に優しい所のせいだってのも
私から辞めないといけないってみんなに思われるわ、でも、それってズルいのよ
優しいのがあんたで、あんたが悪くないみたいで・・・・・・・そりゃ確かに私の方が悪いのよ
あ、この白菜まだ、新しいっ、くそちゃんと煮えたのと分けておきなさいよ・・・・・・で
勝手に惚れて、勝手にフられて、それでもつきまとって・・・・・客観的に見たって、私に
正義は無いのよ、私はそこで自分が正しいって吼えるほど、アメリカ的でもないし
原理主義でもないわ」

「お前、わけわからない事を引き合いに出さないほうがいいぞ」

「るさいわねっ、なによ、余裕?っていうか、そんなにあたしって魅力ないの?
ああっ!?なによっ、どんだけ誘っても、最終的には・・・・・わかってたわよ
・・・・・ちょっとうどん伸びてるわよ、早く食べないと雑炊に響くわ・・・・その
そんだけあの子が好いって事わ、私だって、唯一無二の親友なんだから
それでも、少しくらいとか期待したりとか、そういう態度でほら、フラグ立ててるのかなって
あ、噴いてるっ、火、火、火ぃ強いってっほらっ」

「とりあえずな」

「なによ」

「食べるか、喋るか、泣くか、どれか一つに絞れ」

ひぎぃ
全く可愛くない声で顔が崩れた、びーびー、それこそ壊れたように泣いた
そのBGMに、鍋がひたすらぐらぐら滾っている、ぐらぐらー
旨そうな音が、いぎぃとか、もう聞かれたらどうしようもないような声で泣く所を包んでいる
流石鍋だ

「ううーー、ぢくじょうーー・・・・・・・・好きなのよっ、今でも、あんたの事が・・・・・
なんか知らないけど、とんでもなく好きなのよっ、うぅぅぅうう・・・・・どうしようもないの”よ”−
・・・・・・ううー、鶏肉頂戴、好きなの・・・・・・・・・・ああ、ちなみに今の
鶏肉も好きだけど、ちゃんと、あんたの事も・・・・あんたの事も・・・・・・鶏肉よりずっと好きだがら・・・
うぎーーー・・・・・口惜しいっ、なんでいつもあたしばっかり・・・そういう気がするっ、もうっ
鶏肉っ・・・・・・うくっ・・・・・・ずぞぞー」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・えっぐ・・・・・ううー・・・・・・苦しいくらい、好きなのよぅ」

最後のは絞り出すような声だった、かすれた感じが女だ、そう思わせるに充分だった

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・志保」

「なによ”」

ぐつぐつぐつぐつぐつ

がちゃ

「ひーろーゆーきーちゃーん」

>あかりビジョン
浩之に押し倒されてる志保が泣いている

「ち、違うぞ、あかりっ!!!!」

「うわーーーーーん、あ、あかりぃっ、ヒロったら酷いのよ、あかりぃっ」

「あー・・・・よしよし、志保は、悪くないよ、いいんだよ・・・・・・・」

カタパルト発射でもしたように、滑り出した志保がさっとあかりに泣きついた
凄まじい速さだ、つっこむ余裕が無い、呆気にとられてる中、さっさと
あかりは志保に取り込まれた

「流石に酷いよ、浩之ちゃん・・・・・」

「な、てめっ、馬鹿な事言ってんじゃねぇっ、こいつが・・・・・」

言えない

「・・・・・・うわああああーーーん、ヒロってば、この期に及んで私のせいにするのね
悪かったわよ、そりゃ私が、少しばかり美人で気だてが良くて、そういう女に見えたってのが
悪いっていうんでしょう、わかってるわっ、うわああああああああ」

「てめぇ、その三文芝居、いい加減に・・・・」

「あ、鍋噴いてる」

「ええ!?おわっ」

じょわわわーーーーー

あかりの冷静なつっこみに、すぐ火をとめた
というかガスを止めた、なんだかガス臭くなったが、中毒起こすほどではない
ぐらぐらと、後熱でまだ、鍋は煮えている、すっかりたくさんの気泡に囲まれて
なんだかネギとか豆腐とかカマボコが、とても美味しそうに見える
湯気が、ほわほわ上がると

「あ、いい匂い、一緒に食べよう、ね、志保」

「・・・・・あかり」

屈託のない笑顔、その造形がこの屈託というよく分からない単語を導き出す
自然なのか、作られたのか、それはわからないが、全てを吹き飛ばすような笑顔
それを向けられた志保は、メッセージを受け取るのだ
瞳の色がおびえに変わって、だけど、それは浩之にはわからないままにいつもの挑発顔で

「ははんっ!!この志保ちゃんが、いい加減邪魔ばっかするわけないじゃないっ、あばよよっ
さっさと二人で、姫始めでも、なんでもするがいいのよっ、ばーかばーかっ!!!っていうか、
あかりじゃないのよ、ヒロがバーカっ」

ひゅーん

ぐつぐつぐつぐつぐつ

「なんだったんだあいつ・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・わかるんだけどね、志保の事・・・・・」

「何が?」

「浩之ちゃんには解らないよ、理解するのに、そうだね、14年くらいはかかるんじゃないかな」

「なんだその、具体的なのかそうでもないかわからない時間わ・・・・・・・」

口で吐いた台詞は、既に浩之の頭に無く、相づちのレベルで
すぐに忘れられた、あかりは、そういう適当に浩之が言う台詞に時折どきどきする
本当に気付いてないのか、あるいはわかった上でとぼけてるのか解らない
そこにどきどきする、不安で高鳴る

自分が志保に対してずっとしてきた事と一緒なのかどうか、解らないから、区別がつかないから

とりあえず、今は鍋に手をかけた
二人でやる鍋に手をかけた、女の戦いはずっとずぶどろだ
ぐつぐつ言う音が、今度は二人を滾らせるわけだ

「・・・・・・・・・・・・・・・・わかってるわよ・・・・・・ずっとそうされてきたしね」

貧乏くじは、志保が引くしかないらしい
ずっとしたたかな女が相手では、敵わない事がわかってる
だけど、勝てなくても挑んでしまうのは
志保が、それほどまで浩之を好きだから?

「違うわね」

そう

「ただ単に楽しいからよっ」

宣言しながら、大粒の涙を、何度目かわからない敗北の手向けに









がらがらがらっ!!!

「あ、志保」

「はぁい雅史っ、新年早々何やってんのよっ、この壺買わないと世界が滅びるわよっ!!!!」

ぐつぐつぐつぐつっ


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というわけで、鍋SSでした
吶喊で作ったので、相当荒がありますが、そういうのも含めて
勢いで押し切ってください
個人的に、おいらは、しとやかそうな女性ってのはみんな
芯が強くて、ずっとずっとしたたかな感じがしてます

前回のクリスマスん時の桜子と一緒ですな

志保書くと、無駄に台詞が多くなって行数が多そうに見えるのが難点です
相変わらず中身ないのにねぇ

駄文失礼いたしました   R