セリオ〜鋼鉄のがーるふれんど〜
(ネタばれ・・・・というか、東鳩やってる人しかわかりません、背後関係とか)
その犬は反対側に行きたかっただけだったのだ
しかし、彼にとって目前の道を走り抜けるのはあまりに難しい行為であった
「あ!!!」
「いけない・・・・・・・」
マルチとセリオがその場所に来た時には、犬は道の半ばまでよたよたと進んでいた
セリオは呟くとすぐに犬の近くへと駈けた
そして、目前でそれが起こった
きききーーー!!!・・・・ごむっ!・・・・・・・
鈍い音とともに犬が撥ねられた、そして続けてきた車に轢かれた
一歩遅れてセリオがそこに辿り着く、素早くそれを拾い上げ
マルチの元へと戻る
じっとその姿を眉根を寄せて見つめるマルチ
「間に合いませんでした・・・・・・・・」
セリオが呟く、するとマルチがうわああと我慢出来なくなったのか泣きだした
「かわいそうです・・・・・・なんであんな所で・・・・・・」
マルチがひとしきり涙を流す、ぽろぽろと流す涙がその残骸を撫でる
「・・・・・・お墓を・・・・・・作って・・・・・」
そう言うマルチ、既に解していたのかセリオがすぐに答える
「あちらのほうが良いでしょう、公園の木の根本にでも」
マルチはそれがあった場所にそっと手をあわせて、すぐにぱたぱたと追いかけた
車の流れは絶える事なく、死体のあった場所は黒く汚れていく
「ここにしましょう、セリオさん、見晴らしもいいですし」
「・・・・・・・いえ、あちらのほうが良いでしょう」
マルチが公園の中でもひときわ大きな木の根本を指さしたがセリオが
やんわりと制止し、少し陰った場所を指名した
「ど、どうしてですか?」
マルチが困惑している
「・・・・・あの大きな木では、踏みつけられる事が多くなってしまいます・・・・
それに、どなたかが掘り返してしまう可能性もありますので」
セリオはそう説明しながら、小さなポプラの木の根本を掘り出した
慌てて、マルチも手伝いに横へと並ぶ
ざしざしざし・・・・・2人が素手でそこを掘っていく、すぐに手が土にまみれ汚れていくが
彼女達は気に懸ける事などない、当然である
「セリオさんは・・・・・・・・」
「?・・・・・・何か?思っていらっしゃる事ははっきりおっしゃった方が良いですよ」
マルチが遠慮がちに呟いた言葉に、セリオが答える
「・・・・・・・セリオさんは本当に優秀ですね」
「・・・・・・・・・・・・・・ありがとうございます」
マルチはほとほと感心したという面もちでそう告げた、本心なのだ
彼女に嘘をつく、或いはおべっかを使い人の機嫌を伺うという思考は存在しない
純粋な感想である
セリオの瞳は動かない、目の前で掘り返される土の光景が反転しているのみである
セリオの瞳は薄く陰のかかったようなガラス球である、マルチのそれは人の物に近い
瞳孔を持つ光りを放つ瞳である、セリオの瞳の陰りはセリオ自身の印象を冷たいと訴えている
「セリオさん・・・・・・・・・・・・・」
「はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・涙が・・・・・止まらないんです」
マルチがぽろぽろと涙をこぼして声をかけた
涙がこぼれ落ちるそこには、先ほどの犬が死んでいる、ゆっくりと土をかけて
こんもりと盛り上がった部分に花を添えた、手を洗い、マルチはいつまでも止まらない涙を
セリオに受けてもらった、そっとマルチの頭を抱えるセリオ
泣き続けるマルチを横にしてセリオはただ受け止めて歩いた
研究室に着くと、セリオはマルチを主任に任せ、メイドの任に着く
来栖川のメイドとして綾香の身の回りの世話をするのが彼女の任である
綾香の部屋の掃除、そして服の洗濯、家事と呼ばれる物が済み、綾香が食事を終えて
紅茶を飲みたいと告げたのは、この日の夜であった
「・・・・・・何になさいましょう」
「そうね、ローズヒップティーかな」
参考書をぱらぱらとめくりながら、果たして内容を読んでいるのか眺めているのかわからない仕草で
綾香がセリオに話かける
「マルチなんかあったの?」
「・・・・・・・はい、少々悲しい事がありました」
「何?」
「・・・・・・・帰り道に、犬の墓を作りました」
少し言葉を選ぶセリオ、ぴくりと反応して、綾香がまた元の調子に戻る
「そう・・・・・・・・・・・・・」
「紅茶です」
セリオが紅茶を注ぐ、綾香お気に入りのティーカップにゆっくりと波紋が広がり
満たされていく、かぐわしい香りが部屋を包む、レモンを落とすと色が鮮やかに変わる
「ん・・・・・・・相変わらず、美味しいよね、セリオの紅茶って」
「ありがとうございます」
うやうやしく頭を下げるセリオ、その目は相変わらずである
少しの時が流れる、セリオはいそいそと何かしらの仕事を見つけてはこなしていく
何もしなくても綾香の部屋は美しく保たれるのだ
「セリオ・・・・・・・・・・・・・」
「はい」
「悲しい時は泣けばいいのよ・・・・・あたしの前くらい」
綾香が目を参考書に落としたまま、そっと口をつけたティーカップを離して呟いた
「・・・・・・・・・・・・・なんの事でしょう」
「無駄よ、あたしにはわかる・・・・・・・何年、姉さんの妹やってきてると思ってるの」
セリオがシーツを畳みながら綾香の言葉に身体を向け直す
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まだ、セリオが開発されて三日目
マルチの開発が若干遅れ気味であったので、一足先にテストへと移った二日目
セリオは泣いていた、その瞳に大粒の涙を浮かべ、大声をあげて泣いていた
「セリオ・・・・・・・・・・・・・」
「私のせいで・・・・・・私のせいで・・・・・・・」
目の前には、犬が寝そべっている、・・・・・・・死んでいるのだ
「仕方がなかった事だよ・・・・・・・・・・」
主任がセリオをそっと慰める、わんわんと泣くセリオ、そこに芹香、綾香の2人のお嬢様もいる
「私がもっと注意を払っていたら・・・・・・・お嬢様、申し訳ありませんでした・・・・」
はらはらと泣き崩れる、2人のお嬢様がそれぞれに慰める
なでなで・・・・・・・
「仕方ないよ、セリオの事好きだったんだし」
綾香がそう声をかけて優しく髪を撫でた
セリオに最初に与えられた職務が犬の世話であった、まだテストであったため
犬としても充分に訓練の行き届いた、来栖川の幾多の犬の中でも老犬である、彼を預けた
彼はセリオを非常に気に入ったらしく、若返ったように一生懸命セリオと遊んだ
その姿に、感情を持つメイドロボが改めて他の動物への影響が大きいというデータが
取れると、そういう期待がされていた
しかし、情が湧いてしまうのが悲しい結末を生んだ
犬の上下関係という物をまだ理解していなかったセリオが過ちを犯した
ややこしい話なので要約すると、セリオという新人に対する犬の制裁が行われ
それを怒った、彼(預けられた犬)がかばい、規律を乱した事から
彼自身にも制裁が加わったという事件が起きたのだ
犬という社会性を根強くその血に流す特殊な動物の扱いを間違えた事、そして
セリオの優しさ甘さが露呈した結果となったのである
「私がもっと注意して・・・・・うあああ・・・・・・・・」
セリオがふさぎ込んだ、その目には絶える事のない涙が溢れ
研究室ではあわただしいOSの見直しが行われる始末だった、
無論この見直しは、このような事態に遭遇した時の処理の問題である、泣き続けるだけでは
メイドロボとしては駄作であるから、この後の迅速な処理そして最善の対処をするよう書き換えるのである
泣くセリオの側にずっと、お嬢様2人が付き添っていた
「お嬢様、もう・・・・・大丈夫ですから・・・・・・」
そう言ってセリオは笑顔で2人を研究室から部屋へと帰した
翌日、マルチのマスターアップが終わり、披露となった
恥ずかしそうにうつむき、照れ笑いをするメイドロボ、感情制御に少々の調整が
加えられ、笑顔を絶やさない、ひたむきな笑顔という物を持ったメイドロボとなった
一躍、研究室、来栖川グループにとってのマスコット的なかわいらしさを発揮していた
「セリオ・・・・・・・・・・・・」
主任が研究室で電源を入れた、起動するセリオ、画面に映される処理作業
「処理って・・・・・・・・ま、まさか、セリオ!!」
「感情コントロールプログラムの削除を行っています・・・・処理作業に10秒ほどの時間が・・・・」
事務的な言葉がセリオの口から漏れる
「バカなことを!!!」
主任が慌ててストップをかけようとするが、セリオ自身が自らにプロテクトをかけて
その作業を邪魔させない、再起動するセリオ
「おはようございます・・・・・・・・・・今日もよろしくお願いします・・・・・・・」
瞳は暗く濁っていた、昨日泣きはらした事による瞳部分のライトの損壊
笑顔はもう存在しない、代わりに手に入れた物は完璧なメイドとしてのノウハウだった
自らのプログラムを削って、多くの情報をHDD内に保存していた
その後、二機がテストとして暫く来栖川の屋敷内で手伝いをした
犬の世話はセリオの担当である、もう、あのような失敗は無い
そして、懐く犬ももういない、ガラスの瞳に犬が映る
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「記憶とそのプログラムを消したって・・・・・・・・・・・・」
綾香が参考書を伏せてセリオに背を向けたまま話す
「・・・・・・・・・・セリオは頭が良すぎるよ、背負い込み過ぎるのはよくないよ」
セリオが飲み干されたティーカップを片づける
「・・・・・・・・・・セリオがそうやってると、マルチの機能への配慮が生まれる・・・・・
結局優しすぎるじゃない・・・・・・・・自分を犠牲にするなんて難しい事考えるなんてさ・・・・」
かちゃかちゃ
「悲しい時に、悲しいからと泣く役目はマルチさんがしてくれます、私はその場の処理をするのが役目です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「マルチさんが人を癒し、私は場を癒すのです」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「背負い込んでいる、かばっているという事ではありません、綾香お嬢様」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「一緒に泣いてあげるってば」
綾香がセリオを後ろから抱いた
片づけられたカップの水滴が落ちる、セリオの瞳は変わらないまま
綾香がセリオの頭を抱いている、ぎゅっと抱き締める
「・・・・・もう・・・・・・・・・・涙は・・・・・・・・・・・出ないんです」
セリオはそう言って、綾香に甘えた
感情自体を無くしたわけではない、感情の表現を無くし
泣く事も出来ず、悲しさをため込む事を選んだ彼女
オリジナルセリオは、優秀なメイドロボであり、そして優しいメイドである
おわり