東鳩
pink
「あ、起きたんだ・・・・・・・どう?紅茶煎れたけど」
綾香が湯気の立つティーカップを持って側にやってきた
浩之はまだ、ベッドの上で向こうの世界とこっちとを行ったり来たりしてる
ぼーっとした男の顔を見て、イタズラっぽく微笑い
綾香が隣に腰を下ろす、みし、と柔らかいベッドに吸い込まれる美しい後ろ姿
部屋はBGMが空気を支配している、ワーグナー、ワルキューレの騎行
「・・・・・・・・ずいぶんと勇ましいな」
「おはよう・・・・・・朝よ、浩之」
「・・・・・・・・・・・・・そうか、結局泊まったんだったか・・・・・・・」
「さっきまでは静かな曲だったんだけどね、何かリクエストある?「羊を数える」とかあるけど」
目を細めて笑顔を見せながら綾香が言うと
浩之はようやく事態をのみこんだ
そうだった、確か昨日は綾香と一緒にいて
結局そのまま・・・・・・
そのまま「どうなった」為に、今、となりで紅茶を含む綾香は
「頼むから俺のシャツ着るの辞めてくれ・・・・・」
「あら、好きなんでしょ?裸Yシャツとか」
大きめでやや厚手のシャツが綾香のラインを浮き上がらせる
胸元のあたりで大きく隆起した丸みが
今、生きているほぼ半分の男共の欲望を満たすに充分だ
残りの半分はこれでは勃たない
「誘ってると思って間違いないな」
「そうかもね」
台詞が始まりを告げると
続きがスクリーンに映り込む
のしかかってくる浩之に任せたままに、手元の紅茶は上手くテーブルの上に置いた
かちゃかちゃと陶器の奏でる音がして、一度だけ大きく中の液体が波を打った
波紋が広がると写る鏡の世界は円く歪んだ、そこがスクリーン
身体を重ねる男女と小綺麗に片づけられた世界
白い部屋は紅茶のままに、美しく淡い紅に染まり
男女の陰影と家具の形は、味覚のように円く濃淡で描かれた
息づかいと声は映らない、トーキーのようにそれよりも瀟洒に
熱っぽい艶やかな部分は湯気と香り
カップの小さな世界に閉じこめられる、朝の一杯の紅茶が描く世界
斜に差し込む、朝日
「・・・・・・・・・・・・浩之って胸好きだよね」
「そう限ったわけでもねーよ」
シャツは着せたままに、ゆっくりと裾から忍び込ませて
浩之の大きな手の平が、それよりも大きな二つの丸い胸を包み込む
言葉の通りに、片方の手は別へと移る
綾香の髪を撫で、首筋に滑り込ませると首の後ろを抱える
熱いキス
すぐにもう一つの手を胸から離し抱き締める、綾香の大きなそれが
柔らかく窮屈そうに浩之の胸板に押しつけられる、魅惑的に歪む乳房
Yシャツのはだけた胸元で、谷間が男を誘う
「ねぇ、着たままがいいの?」
「・・・・・・・・・・・・たまにはな」
この前もしたじゃない。綾香は思っても口にはしない
乱暴に求められる豊満な身体、気品が匂う
生々しい人肌の匂い、だけど、綾香のそれは鼻腔をくすぐるだけで
甘く狂おしい
思わずとも子供のようにむしゃぶりつく浩之
「ん・・・・布越しで・・・・・・いいの?・・・・・・」
「挟まれる幸せは男にしかわからんのだろうなぁ・・・」
前言撤回、おっさんがむしゃぶりついてる
綾香の話も聞かずに一心不乱
その形容で全てが事足りる浩之の仕草、これは暴力
「・・・・・・あ、や・・・・・・・・もうちょっと優しく・・・・・・・痛い・・・・・」
「好きだからな」
「答えになってないって・・・・・ん」
さらに強く揉みしだく
官能的に悶える綾香、綾香も気付かないうちにYシャツの他に
ちゃんと履いていたはずのシルクの下着は足首で止まっている
浩之が綾香の長い脚を指先で撫でる、ふるふると可愛い反応をすると
長い黒髪がさらさらとシーツに泳ぐ
「ん・・・・・やだ・・・・・・・・・・くすぐったい・・・・・」
「綾香って足弱いよな」
「・・・・・・・そう?限ったわけじゃないわよ」
猫科の目が細められてベッドに横たわる
すっかり準備が出来たようにそこはずいぶんと温かくぬるぬるとしている
上気した頬、そして口から漏らされる熱い吐息
何度も行き来した浩之の指先が、つー、と両脚の繋がるところへと移動する
「あ・・・・・・・・・・ん」
「・・・・・・・・・・・・」
「何、うれしそうな顔してるのよ」
言葉もなく浩之がそこをなぶる、濡れたそこを丹念になぞり
指先を濡らすとそのまま中指を入れる、いっぱいまで入れて
第二関節で曲げる、天井をひっかくように
「ああっ・・・ん・・・・だ・・・・・あ・・・」
「可愛いな、ほんと」
つぷつぷと飲み込むとすぐに液体にまみれた音が響く
いやらしい浩之の言葉が綾香をくすぐる、あまり好い感じじゃぁ無い
羞恥に染まる綾香が背を向ける、つるりと入れていた指は抜けて
そこからずいぶんと長い糸が垂れる
後ろを向いた綾香の腰を強く掴むとそのまま尻を上げさせた
「え、ちょ、後ろから?」
「ったりまえだ、裸Yシャツで前からしてなんになる」
この前は私が上になるのが普通って言ったじゃない。
言う口が違う形に歪んだ、既に準備万端の浩之が侵入している
ぬるるると、これは男の感覚だがかきわけるようにして
柔らかく温かい中へと入る、
「は・・・・う・・・・・・・・・あ・・・・・・・」
「入れただけでも充分気持ちいいよな、ほんと」
「変な事、言わないの・・・、・・・ん・・・・」
それでも入れたままで気持ちがいいのは浩之だけでもないらしく
そのままの状態で、目を閉じて悩ましく腰を円を描いて動かす
Yシャツの裾から覗く、繋がった部分が、何に変えてもいやらしくて
一つしかボタンの止まっていない前には
大きな胸がたわたわと揺れる
「さ、行く・・・・・・ぞ・・・・・・・・」
「あ・・・ん・・・・・んあ・・・・あんっ・・・・・ん・っっ」
ゆっくりと、ベッドの軋みは、ゆさゆさという
波に揺れるような緩やかな挿入が続く、はぁはぁと
高ぶる呼吸、ずるずると音がするような感触が
浩之の物体から伝わって、脳の後ろあたりをうずうずさせる
ゆっくりと動かしていたそれは、すぐに快楽に負けて
勢いが増す、ぱんぱんと音がしそうなほど
強く長いストロークで行き来をする、つっぷしている綾香の声が
熱っぽい甘い色を帯びてくる
「んあああ・・・あっ・・・・いい・・・・・も・・・・・・だ・・・・んん・・・・ああ・・・っっ!!!」
ゆさゆさとベッドに擦れるようにして揺れる乳房
浩之が我慢しきれないように、ベッドに潰れている綾香の胸に
手を滑り込ませて上半身を持ち上げる
入る角度が変わったのか、綾香の反応も変わり
激しいぶつかる音が、あからさまになる
ぱんっぱんっぱんっ
「んああああっっ!!!いや・・・・・この格好、は、恥ずかし・・・・・・・いぃっ!!やっ!」
乱暴にぶつける浩之の腰のピッチがさらに上がる
痕がつくほど強く胸を握りしめる、痛い、けどそれが・・・
絶えきれなくなった綾香が先に昇る
「くぅあああっっ!!・・・・・やぁああっあぁんんんんんんああぁ””!」
ぶるっ
一度大きく震えあがると、上半身の硬直が強まり
やがて伝播した快楽の波が下へと移っていく
浩之が入っている部分が、きゅうっと一度強く締まると
すぐにそれは弛んで、ぱくぱくと3度4度と締め付けが弱くなり
くわえたままの綾香のそこが、とろりと白濁した液体を吐き出した
「・・・・・・・・・はぁはぁ・・・・・・・ん・・・・・まだ・・・・はぁ」
「あーあ、置いてかれちまった」
浩之が不満げな声色で、満足そうな顔をする
ずるりと抜き取ると、綾香が事後の余韻に身を奔らす
綾香のそこは、抜き取られたままに
ちょうどそれくらいの穴が空いたまま、中からは「綾香の白い液体」が零れる
浩之が塩気の多いそれをしげしげとすくう
まだ屹立を緩めない浩之のナニ
綾香がうらめしそうにそれを「恥ずかしい格好」のままで見ている
荒くなった呼吸が腰を上下させている、魅惑的なその状態に
浩之がすぐに続きを強要しようと耳うつ
「だ・・・ちょっと、休まないと・・・・・」
「時間が無いだろ・・・・・・・・悪いが」
浩之の言葉に時計をちらりと見ると
「はいはい」と聞き分けのない子を叱るようにして
綾香が浩之のものを口に含んだ
☆
「あら、いいの?」
「こんな所の金くらい払わなくてどうするっつうんだよ・・・・・・ほら、出るぞ」
それなりに高級な所なのだが。ぽんと綾香の背中を叩いて
のれんのようになっている裏口から別段こそこそするわけでもなく出てくる
不健康な場所にはそぐわない、素敵な陽光
綾香の肌の赤みが健康な色に変わると、回りの雰囲気まで変わってみえる
すぐにこのあたりからは離れないとな・・・・・、何気なく浩之は思って
手を繋ぐわけでなく、腕を組みにくる綾香を連れて人目に触れないルートを選んだ
駅前に出る
「まだ少ないな流石に・・・・・・・・」
「そうね・・・・・・・・・さ、朝どうするの?ヤック?」
「仮にもお嬢様をお連れしているんだ、少しは雰囲気の違うところをだな」
浩之が言ったまますぐにそちらへ歩き出した
綾香が猫よろしく、ついてまわる
愛らしい姿が、浩之の気分をずいぶんと昂揚させている
いわゆる、好い感じだ
「あ、どうしよっかな?」
「バニラだろ?今日は、紅茶も付けてやるよ、ほら、席座ってろ」
なんにしたって安いには変わりない所を選んだらしい
そんな事は気にするわけもない綾香が、うれしそうに狭い店内を縫って行く
先にオーダーして、品を貰ってから席につくのがこの店のルールだ
朝の慎ましい時間をここで送る人間も少なくない
混雑まではしないにしろ、それなりの店内で窓際の席をとる
「すがすがしい朝食よね」
「嫌味か?」
浩之が持ってきた、紅茶と珈琲、バニラアイスとクラブハウスサンド
小さなテーブルをいっぱいにするように並べられる
クラブハウスサンドを、さっくりかじる
表面をパリっと焼き上げた香ばしいパン、そして間に
ふんだんに挟まれた野菜達
二口食べて、コーヒーで流す
「わたし、浩之の食べ方って好きだな」
「あ?」
「なんていうかな、・・・・・・・・・・・なんか、いい」
その台詞エロいな。密かにそんな事を思うが
まんざらでもなく、視線を外へと逃がす
喧噪でもない、ゆるやかな平日の朝がそこに横たわる
綾香も釣られるようにして、外へと視線を移した
二人とは違う時間軸に居るような人々
「忙しそうよね、みんな」
「ま、俺達よりは忙しいだろうな」
やる気の無い声
浩之の悪いところで、そこが魅力だと綾香は思っている
まもなく長かった冬が終わりを告げる
そういう遠くない春の足音、それが聞こえるような時期にある
まもなくサクラが咲き、得も知れぬ感動を胸に吹き込む
二人はその、非常に繊細な季節の温かい空気に晒されている
「ねぇ、浩之」
「ん?」
「一個もらっていい?」
「ああ、そのために1皿に3つ乗ってるやつ買ってきたからな、どっちがいい?」
「トマトの奴」
「トマト好きだよな・・・・・」
「そう?野菜はみんな好きよ、セロリもパセリも」
「しかし、朝からバニラアイスってのはどうかと思うんだが」
「いいのよ、牛乳飲むみたいなものよ」
「そんなもんか」
「そんなもんよ」
「しかし、暖かくなったな・・・・・・」
「そうね・・・・・・・・・あっという間かな?冬が終わった感触」
「そうか?ずいぶんと長い間寒かったがな」
「新しい春をそれだけ、待ちこがれてたって事よ、私は、冬も好きだから・・・・っと、ゴメン」
カタ、イスの音は静かに綾香が用で席を立つ
「追加は?」
「コーヒーおかわりかな」
「はいはい」
と、と、と、と
「綾香」
「なに?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺、あかりの事が好きだ」
た、た、た、と
「知ってるわよ、そんなこと」
綾香がトイレに消えていった
浩之は外を見る、ビル街のこの駅前には無い
だけど、目に映る、姿
サクラの花が、咲き誇る
並木道の中で
風に舞う、サクラの花びらが
薄紅色の世界を作り
儚い姿が
新しい春の温かさと、何かの始まりを予感させ
痛みと切なさを心に染み渡らせる
痛みは冬までの過去を
切なさは冬までの記憶を
土と木々の温かさが、未来を不安と期待で輝くものに彩り
それとともに去る、痛烈な切なさと激烈な痛みを思い出に覆い隠すのだろう
「・・・・・・・・・・・・・綾香」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・・ここ、奢るぜ、なんでも頼めよ」
「・・・・・・・そんなに食べらんないわよ」
☆