マルチ〜HMX−12型、汎用お手伝いロボット〜
(マルチのシナリオクリアした人だけ読んで下さい、ネタバレっぽいんです)
ぶろろろろろーー・・・・・・・・
バスが、ゆっくり走っていく、見慣れた景色、二週間にも満たないわずかな時間だけど
確かに、自分がそこにいたのを覚えている
たくさんの人に、出会いました。とっても、優しくしてもらいました。みんなの笑顔が素敵でした。
私は、お手伝いが出来たでしょうか。どじでダメなロボットでしたが、精一杯がんばりました。
誉めてもらえて、うれしかったです・・・
・・・・・・・・あの方の笑顔が見られたのが本当にうれしかったです。
ぶろろろろろーー・・・・・・・・
「・・・・・・もうそろそろ、バッテリーも限界だぞ」
「心配するな、マルチは必ず帰ってくる、約束を破るような子じゃない・・・」
「・・・それも、そうだが・・・・・」
かちゃ・・・・・・・、扉が静かに開く。薄暗い向こう側に、女の子が浮かび上がる
マルチだ。
「あの、申し訳ございません、遅れてしまいました」
ぺこりと、頭を下げる。一つ一つのしぐさが、自然で嫌味もない、今時、本物の人間にも
こんな娘はいないのでないだろうか。
「・・・・どうだった?」
「はい、しっかり、恩返しも出来ました。私にとって・・・・・・最初で最後の、最高のご主人様でした」
そう言った、その笑顔は一つのかげりもない、純粋無垢なそれだった
うっすらと、頬に紅をさしつつ、うつむく
研究室の人間が、その言葉にどんな意味があったのか、それとなく悟る
もともと、そうなっても好いように作ったのだから、別段問題などないのだ・・・自分の娘が
大人になったとでも言おうか・・・・研究室の人間にとって、マルチの笑顔は自分達の笑顔に他ならない
「じゃあ、そろそろバックアップに入るぞ・・・・マルチ」
「はい。」
静かに、歩み寄り、色々と配線の伸びたイスに静かに腰を降ろす
ゆっくりと、目を伏せるわずかだが、笑みを浮かべているようにも見える
「・・・・・・・・・・・・・」
なでなでなで・・・・・、ふいに、研究者の一人がマルチを撫でた
「あ、あう、ありがとうございます・・・・」
マルチが、少々驚いたように、そう言った。作業が始まる・・・・・・・・・
・・・・・マルチから情報が流れてくる、マルチの生きた証、その思い出がやがて
産まれ来る量産機達の糧となる、全てが終わり、マルチの電源が落ちる
「・・・・・・しばらくの間だよ、おやすみ、マルチ」
「はい・・・・・・・、とても、いい夢が見られそうです」
その瞳が、ガラスの玉へと変わり、まぶたがそれを覆った
そして、来栖川研究所の大会議が始まった、無論議題は新製品に関するコト
最終的に、マルチとセリオどちらを、主流とするかの話だ
「会社側からの、意見です・・・・・・」
秘書らしき男が、社長の横で、資料を読み上げる、円卓にはセリオ開発陣と、マルチ開発陣が
並んでいる、皆、秘書の一言一言に注目して静かに時を待っている
「・・・・以上の理由をもとに、セリオを我が社のメインとして、企画、開発へと移るコトとします」
秘書が資料を読み終わる、マルチ側の陣営も少々がっかりしたが、メインくらい譲ってもかまわない
という気持ちがあるため、何も異論などない、セリオも決して悪くはない機種だ
開発陣がその結果に歩みよる、そこに経営陣が次の意見を出す
「なお、12型につきましては、そのシステムは事実上破棄、形態のみを残しOSには、13型を起用し
HMX13簡易型として、再開発、商品化というプランでお願いいたします」
「な、何!!マルチOSを破棄するのか!?」
マルチ側の開発陣営が、ものすごいブーイングを起こす
「どこに、欠陥があるというのだ、二つの商品で攻めるコトになんら経営上の問題は見られないが・・・」
「同時に二つの全く異なるモノを発売するコトがどれほど危険か、わかっていないようだな」
「そんな、営利上のいいわけが聞きたいのではない、なぜ、破棄に至るかが問題だ、発売を遅らせても
問題はないはずだ・・・・」
「・・・・いいか、これから13型を正式発表する、もし、同時に12型も発表してみろ、二つの機種を同時に
この業界でトップ維持、シェア獲得がどれほど難しいか・・・・」
「ふざけるな!!そんな理由で、明らかに有益なこのシステムを破棄する気か!?ばかげてる」
「・・・・いい加減にしたまえ」
経営側と開発側での口論に、社長が口をはさんだ
「いいかね、我々は確かに老人介護という問題の上でこの企画を立ててきた、しかしだ、
我々はボランティアではないのだよ、会社は慈善事業で成り立つものではない・・・・」
「・・・確かにそうかもしれません、が、心を持つこの独自OSは、マルチは、このまま棄てるには・・・」
「それは、技術屋としての意見だな。自分の手柄を人に認めてもらうための・・・」
「違う!!そんなくだらないコトにこだわってなどいません!!本当に、こいつの発売が・・・・」
「・・・・・なぜ、12型を起用しなかったか、理由を聞いていなかったのかね?12型では対応が
瞬時に出来ない、確かに、順次自ら学習するシステムは、非常に多様な判断をうむコトが出来る
だが、育てるのにあまりに時間とコストがかかるではないか、その点13型は最初から全てに
対応しうる、いいか、ニーズは即戦力という点を求めているのだよ」
「心の概念が、必要なコトはわかっているはずだ・・・・」
「心システムかね・・・・はっきり言おう、メイドロボにそんなモノは不要だ」
冷たく社長が言い放つ、開発側は最後まで猛反対したが、社長の決定をくつがえすコトなど
出来はしない・・・・・・・、そして、会議は終わった
「・・・・・・・・・・・・・・・」
会社を抜け出て、公園に来た
ぱらぱら・・・・ぱらぱら・・・・・・・・鳩に餌をやり、ぼーっとしている
(なんのために、マルチは、マルチは・・・・・・・)
ふと前の方から誰かがやってきた、どこか記憶に残る少年の顔
(誰だったか・・・・・・そうか、マルチのブラックボックスに五重のプロテクトがかけてあった
・・・・・・・この少年が、そうなのか)
ふいに、話かけてしまった。色々な興味が涌いたのは確かだが、本当に彼に求めたのは
もしかしたら自分のコトをわかってくれる人間かもしれないという、淡い期待だった
「・・・・・・・・・・・ロボットに心は必要でしょうか?」
「あったりまえじゃねえか・・・・・・・」
いくつかの会話の後に、本当に聞きたかった言葉を、親である自分よりもマルチの近くにいた
少年の口から聞くことが出来た。しかし・・・・・・今の自分にはもう、マルチを活かすコトは出来ない
かちゃ・・・・・・・・・・・
研究室に戻ってきた、人気がなくなって、まだ一日しか経っていないというのに、ずうっと前から
誰もいなかったような寂しさと荒廃ぶりを見せている、がらんとしたその部屋の真ん中に、
静かに目を閉じ、眠る少女がある、電源が入っていないというだけで、本当に人形でしかない
眠る少女の前に腰を降ろす
「・・・・・・・・さっきなあ、お前のご主人様に逢ったぞ、いい奴じゃあないか・・・・・幸せだったろ?
・・・・・よかったなあ・・・・・」
そう言って、頬を撫でる、柔らかな感触が手のひらに伝わる、しかし、
「・・・・・人形みたいだな」
愕然として、頭を垂れる。ショックは隠せない、ここなら隠す必要もない、ひと思いに、大声で泣いて
しまおうかとも思う・・・・・いくつもの、マルチとの思い出がよぎる、不思議なモノだ、特別に
何かしたわけでもないのに、いくつも思い出が浮かぶ、・・・・・・全てがマルチの笑顔だ
・・・・・ぽた・・・・・ぽた
人知れず泣いた、どうしていいかわからない自分がここに居る
そして、優しさに触れる
なで・・・・・・・・・なで・・・・・・・・・・・
「!!」
頭をゆっくり撫でられた、思わず頭を上げる、目の前にマルチが飛び込む
「マ、マルチ!?」
動くはずはない、メインの電源はとうに切れて、システム維持の為、微弱な電気が流れている
だけだ、しかし、確かにその小さな手は自分を撫でてくれている、そして
「・・・ありがとうございますぅ・・・・・・・・私は、色んな人に想ってもらえて本当に幸せですぅ
だから・・・そんな悲しい顔・・・・・・・・・・」
「マ、マルチ・・・・・お前・・・・・」
思わず抱き寄せた、ぎゅっと抱きしめた、そして涙が幾重も流れた
腕の中で、マルチがまた元の人形に還っていく
自分の涙がマルチの頬を濡らした、マルチも泣いているように見えた
でも、マルチには笑顔が残っている・・・・・・・
やっぱり、心が優しさが必要じゃないか・・・・・・
ほどなくして、HMXー12型研究室は閉鎖された
マルチOSは破棄となり、今残るのはオリジナルのデータを納めたDVDのみである
DVDの中に、マルチは眠り続ける・・・・・・主人の迎えを待ち続けて
(終わりん)
はふん。