「流石に暑いなぁ・・・・・・・・・・・・・・」
じわじわとセミの鳴き声が聞こえる、空は一面真っ青、やや白いもくもくとした
雲がかかっているが、ほぼ快晴だ、太陽の光が痛いくらいまぶしい
青々と茂った木を見つつ、するすると俺は歩く
いつもの地元の何倍もの湿度の高さに、若干参りながらも
目的の場所へと急ぐ

あれからもう、二年近く経っている、夏だ

俺は今、大学生をやっている、まあ、紆余曲折があって
学科も、情報処理関係とだけ言っておこう、うん、決して設定が
いい加減なわけじゃあないぞ、さて、それはいいとして
とりあえず大学生として、一年目、ようやく慣れた所だ
今は夏休み、わけあって、京都へと遊びに来ている

「みんな元気かな・・・・・・二年ぶりになるのか・・・・・」
正式には二年ぶりじゃない人も、一部含むが、そうあのメンバーと
再会する約束なのだ、ここは京都、夏の京都は、夜なら情緒に溢れて良いのだが
昼間は蒸し暑さで、シューマイでも作れそうなほどだ・・・これだから、盆地は困る(ぉぃ
ゆっくりと、駅の構内を歩き外へと出る

「お!!高馬!!久しぶりだなあ♪」
「よう、髭大魔王。相変わらずむさい顔して・・・・」
がず!!!!!
「いやはや、全然変わってないねえ、わーふさんてば♪」
まず、当利とあ〜る子さんが待っていた、お決まりというか二年経っても
全く進歩のない俺と当利の友情を見せつけつつ、京都の地へと降り立った

当利勝
現在、地元を離れ一人暮らしを展開中、大学へ通う傍ら、小説書きにいそしみ
近い内に、ノーベル文学賞を取ると豪語しているが、実際の所、小学館の新人賞にすらとどいていない
まだまだ、先になる気配濃厚だ。

坪倉あ〜る子
予定通り、インテリアデザインの勉強をしながら、傍らで油絵を描き続けているらしい
小さな街の展覧会などの常連にはなっているが、未だもう一歩の壁を越えられない所のようだ
水沢さんのアトリエへと足繁く通っているという話しもある

なお、この二人、どうやら近所に今は住んでるらしい・・・・

「よし、時間ねえから約束の場所へごうごうっと♪」
「で、お前道分かるのか?」
「大丈夫でしょ、地図あるし♪」

・・・・・・・・・・・高馬わーふのマメ知識:方向音痴・・・プロの迷子

嘘級生〜蛇足ぅ〜

「こらてめえ!!さっきから、何十分歩いてると思ってんだ、ぁあ!?」
「うるせぇ!!俺だって好きで迷子になってんじゃねえ!!」
「あーー、暑いんだからケンカしないでよ・・・うるさいなあ、たくもう」
三人汗だらだら滴らせて歩く、誰が悪いと言われると、俺が悪いのかもしれないが
ともかく、迷子になりつつ約束の場所へと向かっている、うーん
果たして今日中に辿り着くだろうか・・・・・・・

「・・・・・あ、あそこだよ・・・・うん、きっと」
しびれを切らしたらしいあ〜る子さんが、さくさくっと地図を片手に俺と当利を案内してくれた
あうう、ありがとう、あ〜る子さん(T−T)
行くと、あの二人が待っている、やっぱり絵になるなあ

「・・・・・・・見事に遅れてきたわねえ」
「うーん・・・・まあ、いいんじゃないかい?」
くろねこ先輩と、さり先輩が待ち合わせの場所に二人揃っている

杉本くろねこ
ロシア在住、仕事など一切不明。一説によると日本の密漁船の捜索に全力をあげているとか
民族闘争に関わったとか、ロシア一美味いボルシチを作る男になったなど、全くどれも
信憑性がない。ただ、あのころと変わらない優しい瞳と、すらりとした体型は保たれている

秋積さり
メンバー中唯一まともに生活している。大学に通い、女子大生を満喫しつつ、それなりに楽しい
毎日を過ごしている。いたる所へ旅行へ行っているという噂もあり、ヨーロッパは制覇したとか
違うとか・・・・・、ロシアに寄ったかどうかは定かでない

「遅いよぅ、あたしを待たせるたぁ、なかなかいい根性してゆね・・・・」
「いや、当利の奴が、道に迷いやがって・・・本当、すいま・・・」
「バカ野郎!!てめぇが間違えてたんだろ・・・・ったく・・・と、遅れてすいませんでした」
当利が俺を殴りながら、さり先輩に謝る、やれやれって顔でそれを見る先輩

「全然変わってないね・・・・・みんな」
「先輩・・・・・・・・・・ロシアにまだ?」
こくりと頷くくろねこ先輩、あのころより肌が一段と白くなったような気がする・・・男の人なのに(−−;
みんなで談笑していると、最後の使者がやってきた
「悪い、悪い(^^;」
「先生遅いよ・・・・ったく、迷子になってたんじゃないの?」
「すまんすまん、手みやげを買ってたらちょっと遅くなってしまってな」

水無月巳弦
その後も謎の教師として、学園の一教師を続けている、しかし、二年の内に無事出世を果たし
現在では、二年生の学年主任をつとめるほどとなった、ただ、春先になると、空き地で独り言を
話すという癖は治っていないらしく、心配は尽きない

「うわ、なごやん買ってきたんですか(^^;・・・また、使えないモノを・・・」
「何を言うか、これがないと旅行は始まらないんだよ」
先生が誇らしげに土産物袋を見せる、うーん、あれ食べるのかよ・・・・
一同なぜかげんなりしながら、移動を開始

「まあ、ついこの前まで一緒にいただけに、変わってないな・・・・」
「そうっすかねえ、なんていうか、みんな変わったような気がするけどなあ」
俺が正直な感想を先生に述べる、みんなで適当に、離れてからの話しを
しながら、とりあえず歩く

「そうか、あ〜る子ちゃんは、水沢さんと一緒にいるのね?」
「うーん、一緒にいるっていうか・・・あたしが一方的につきまとってるんですけどね」
あ〜る子さんが、楽しそうにその様子をさり先輩に話している
「当利のは、調子どうだい?」
「まあ、今に見ててくださいよ、先生♪、俺もセンセイって呼ばれるような存在になってみせますって」
当利がみなつきさんと、今から先の話しまでをしている

「・・・・・・・・どうしたの?高馬くん」
「え?・・・いや・・・・やっぱり、この仲間って懐かしいなって・・・・・・」
先輩が俺に話しかけてきた、驚きながら心中を話す
「センチな高馬くんは、見たくないなぁ」
先輩がそう言いながら俺の肩にぽんと手をおいた
「いや・・・そ、そんなんじゃ・・・・・」
慌てて俺が否定するが、先輩がやれやれという顔でそっと呟く

「・・・・・・・・・・・まなちゃんは、見つからないのかい?」
俺と先輩は、みんなから少し遅れた形で追っている、みんなの話している
笑い声が楽しげで、俺も楽しいと思う・・・・・・先輩の言葉に小さく頷く俺
「そうか・・・・・・ったく、どこへ行っちゃったんだろうねえ」
「本当・・・・困ったもんですよ・・・・・」
俺は、実はそんなに気落ちしていない・・・・・決して、悲しくなかったわけじゃないけど
なんていうのだろう・・・・・・・・そうか・・・・・という感じかな
・・・・・って、なんでずっとロシアにいた、先輩がそんなコト知ってるんだ?

「・・・・で、高馬くん、今付き合ってる子がいるんだって?」
「っわ!・・せ、先輩いきなりナニ言うんですか・・・・ロシアに居たのに、んな話題(^^;」
「いや・・・なんとなくそんな気がしてヤマかけてみたけど・・・本当にいるのか(^^)」
先輩が、楽しそうに笑う
「違いますよ・・・・そんなんじゃあないです、まだ・・・・」
俺が言葉を濁す、確かに、今、非常に年下の女の子と良い感じにはなっている(−−;
まなと付き合ったせいだろうか、ロの兆候が出てきているが、まあ、良いとして・・・・そんなに
ステディな関係でもない・・・・仲の良い子という感じだ

「先輩こそどうなんですかぁ?」
俺が、苦し紛れに話題を振る、すると、遅れてる俺達にさり姉が気付いて割って入ってきた
「やーん、二人っきりなんて、ダメダメ♪・・・・わーふくんは、わたしのおもち・・・・じゃなくて、かわいい子なんだから♪」
さり先輩が、一瞬背筋が凍るようなコトを言ったような気がするが、とりあえず
くろねこ先輩の本心を聞けない・・・・うう、タイミング悪い・・っていうか、意志疎通してるのかな、この二人は
「えー、くろねこ先輩とわーふさん、二人っきりって・・・な、なんか・・・」
「わー!!、な、ナニ期待してんの、あ〜る子さん!!」
なにやら突然顔を赤らめだした、あ〜る子さんにつっこみを入れる俺

「あれあれ、マジで否定しなくてもいいのにぃ♪」
あ〜る子さん・・・ちょっと見ない間に、キャラがさり先輩に似てきたよ(^^;
「でもでもね、くろねこくんてば、ずっと、高校の時、わーふくんのコトが・・・・・ねえ」
さり先輩が、くろねこ先輩にとんでもない話しを振る
「先輩が、言うと洒落に聞こえな・・・・・」
「・・・・・・・・・・・(=^^=)」
「って、くろねこ先輩!!!な、ナニ顔赤らめて恥じらってるんすか!?」
冗談ではない、爆笑してるみんなだが、本当にもう・・・・いつの間にか餌にされて遊ばれてる俺
うーん、前からこんな感じか・・・・・・

「で、誰が企画原案なんだ?京都なんて渋いぞ」
「へへ、俺っすよ先生♪やっぱ、京都で仏閣巡って身を清めるべきかなあって」
「そうだよなあ、お前犯罪者みた・・・・」
がず!!!
「どうでもいいけど、いつまで歩くのよ(^^;」
みなつき先生から当利、俺、当利のつっこみ、んでもって飽きてきたさり姉と言葉が回りつつ
目的としていた、所へと辿り着いたらしい
みんなで、ずらずらとそこへと侵入する

三十三間堂だ、大量の手がある仏様がたくさん置いてある所だ(かなり間違い)
なお、gooで検索するとき、三十三で引けるのは知られていない(意味不明)
「とりあえず、やっぱ基本を押さえるのね・・・・うーん」
と、さり先輩が早々に自分に似た観音様を探しだした、三十三間堂の名物といえば、この大量の観音様の
中から自分に似たモノを探すコト・・・うーん、修学旅行みたいだなあ(^^;

みんなで自分に似た観音様を探す、髭の生えた観音様がいないので、既に脱落している当利が切なげだが
十二神将を拝んで、通し矢の会場を見つつそこを後にする・・・・
蒼い空に向かって、すーーっと伸びているような堂の壁、風情を醸す松、凛と静まった外、それでも
セミの声が耳に、夏なんだなぁと改めて思う
「・・・・・・・・・・神社?」
「おい高馬ぁ・・・・早くこねえと置いてくぞ!!」
「あ、わりぃ・・・・・・・・・・・」
俺が長く空へと伸びる石段の上にある神社に目を奪われていたが
当利の声で慌てて、駈ける・・・駈ける・・・・駈ける・・・・・・

         神社
立派な門構え、柱に「おか三神社」と

「おーい・・・・・・・麦茶でも飲みなさい・・・・」
神主が、境内の掃除をしていた巫女に声をかける
「あい・・・・・もう少ししたら頂きますね」
巫女が、ささっとほうきを揺らし掃除を一区切りする所まで進める

「夏か・・・・・・・もう、京都の夏は二度目ですか・・・・慣れましたか?」
「はい・・・・・・でも、まだこたえます」
神主が、冷たい麦茶をそっと飲み干し、神社の屋根で陰になった場所から声をかけている
巫女は一通り掃除を終わらせて、そちらへと向かう、一瞬足を躓けたがなんとか転ばずにぱたぱたとやってくる

「では、いただきますね」
巫女が麦茶を美味そうに飲み干す
りんりりり・・・・・・・・・・・湿度の高い風が、陰をすっと通り抜ける風鈴がそれに応えるように涼しげな声をあげる
「・・・・・・・・・・・・・暑いですね」
「ええ・・・・・・・、京都の夏は格別ですからね」
神主はそう答える、巫女は胸元を少しぱたぱたとさせてまた日の下へと姿を晒す
手で陰を作りながら、空を見上げる、澄み切った蒼がどこまでも広がっている

「晴れが好きですか?」
「はい」
神主の問いに素直に答える巫女

「・・・・・・・・・・・・・雨は?」

「・・・・・・・・・・・・・嫌いじゃないです・・・・・・もう嫌いじゃ、ないですよ」

巫女が笑顔で答えた、屈託のない笑顔

とても暑い夏の日だった

<終わり>