「八十八学園、外側の夏」


その1「話しがあるんだ」

 

ある夏の八十八学園の柔道場ー

「好きな女の子が出来たんだ・・・。」

小柄な少年が、あきらにそう告げた。

「・・・お前が?女嫌いで有名な、あの加藤 陸君が?」

目を丸くして、告げられたあきらが聞き返す

「女嫌いじゃない!ただ、女の子の前だと緊張してうまく、言葉が・・・」

「わはははははははは!」

陸という少年が言い切る前に、あきらが笑い出した

「あ、あきら!お前なあ、俺は真剣な話をしてんだぞ!」

「ははははははははは!」

ぷちっ

機関銃のように笑い続けるあきらに、陸がキレた、

「てんめぇ!畳に上がれ!ぶっとばしてやる!!」

「はははははははは!」

どかばきがすがすがんがんがんごん、ごつっぷしゃーっ(?)

「こら!うるさいぞ、柔道部!」

畳の上で、妙な音とともに暴れ回る二人に向かって、入り口から凛とした声が飛んだ、

「し、篠原さん・・・」「はははは、はぁ、ん?いずみか・・・」

二人の動きがぴたりと止まる

「うるさいから、練習に集中できないだろ!だいたいなんで柔道で、拳が飛び交ってるんだよ」

二人に向かって、いずみが怒る

「いやあ、すまん、すま・・・・わははははは!」

「てめっ、まだ笑うか!」

またも、ふりだしに戻る二人

すぱん!

「・・・・・」

「・・・・・」

再び暴れ出した二人の間を突然、一本の光が突き抜けた

「うるさいって言ってるだろ?」

にこやかな笑顔で、いずみが弓をおろし、練習に戻っていった

「・・・・・」

「・・・おい、陸?・・・ま、まさか、どっかに当たったのか?」

あきらが、陸に声をかける

「・・・あきらぁ、俺、篠原さんのコト・・・」

陸が、まじめな顔で言う

「男と間違えたのか?」

あきらも真顔で言う

「違う!篠原さんのコトが・・・」

うつむく陸

「好きなんだよ・・・」

小声で言った。

「な、ど、ど、どこが!?」

あきらが狼狽する

「か、かわいいじゃないか、それにやさ、優しいし・・・」

顔を真っ赤にして陸が言う

「いいか、陸。かわいくて優しいってのは、唯ちゃんみたいな女の子のコトを言うんだぞ、

だいたいちょっと気にいらないからって、矢を放つような女のどこが、優しいんだ?」

あきらが説得するような、口調で陸に言う。

すると、陸がすぐに

「た、確かに鳴沢さんも、かわいいし優しいよ、でもよ、篠原さんだって・・・」

と、必死に訴える

「・・・本気なんだな、陸・・・」

あきらが、その様子を見て呟く、それに小さく陸がうなづく

「・・・なあ、あきらどうしたらいい?・・・」

陸が思い詰めた顔をあきらに向ける

「テレビを見ろ。」

あきらが、ずばっと言い放った。「はあ?」呆れる、陸

「だから、テレビだよ。ドラマを見ればそれくらいすぐに・・・」

「じゃあな、あきら・・・」

「え?こら、まだドラマの名前を教えてな・・・」

こいつに聞いた自分が馬鹿だったと、うすら笑いを浮かべ

そそくさと、制服に着替え、道場を後にした

 

その2「今日はいい日」

 

(ちい、あきらに相談した俺が、馬鹿だった。

・・・でも本当にどうしたら・・・チャンスなんて

待ってたからってやってくるわけもないし・・・)

陸が赤信号を待ちながら、一人ぐるぐる考えている、

「?変な奴だな、ここはめったに車なんか通らないんだぜ」

そこをいずみが通りかかった。

「ぁあ、し、篠原さん・・・」

あからさまにうろたえる陸

「なあ、”篠原さん”はやめてくれよ、いずみでいいよ」

いずみが、ちょっと困ったように言う

「い、い、い、い、・・・」

「どっか、悪いのか?」

なかなか言えない陸にいずみが、あきれる

「ごめんなさい、今度までに、いえるようにしときます」

「本当に変な奴だな、あきら達とはふつうに喋ってるのに・・・」

いずみが首をかしげる。

(やっぱ、かわいいよ・・・)

陸の目に、夏服のいずみが映る。

きれいに整えられたショートの黒い髪、意志がはっきり

していそうな、きりりとした眉、一見少年のようだが首のあたりは、ぐっと女の子らしい

陸には少々刺激が強い。陸がドギマギしてる間に信号が青に変わり、

二人並んで歩きだす形になった。しゃわ、しゃわ、しゃわ・・・セミの声がいやに耳につく

少し歩いていると、いずみが陸に話しかけた

「そうだ、今月の16日だけど、空いてるか?」

「ぇえ!?ぼ、僕の予定ですか?!」

「いや、柔道部の連中が、ほしいんだよ」いずみが言う

「?」

「あのさ、その日に私、部屋の引っ越しをするんだ、それで重い物とか運ぶのを

手伝って欲しいんだよ。ちょうどお盆だから、お手伝いはみんな帰郷してるし、親

父の会社はなんか行事をやるらしいから、家には誰もいなくなっちまうし。」

いずみが説明する

(・・・・これはチャンスと言うのではないか?)

陸が、よく内容を噛み締める、そして

「い、いいですよ、休みじゃなくても、休みにしますよ!」

と、声をうわずらせた

「そうか?悪いな、受験勉強の為に、部屋変えたかったんだよ」

いずみが笑顔で答える

「じゃあ、早速あきらに言ってきます!」

「え!?い、今から?あぁ・・・おい!」

いずみが驚いてる間に、残像を残しそうな勢いで、道場に飛び帰っていった

どたどたどたどたどたっ、がらがらっ

「あ、あきら!頼む、俺と一緒にいってくれ!」

陸が道場の戸を開け、叫んだ。

「なんだ、なんだ?何を言ってるんだ?」

あきらが呆れて聞き返す、

「じ、実は・・・・・・・・って、わけなんだよお!」

陸が先の話を説明する

「しかしなあ、他の部員はみんなその頃、都合が入ってるだろうし・・・」

あきらが困る

「お、お前はどうなんだ?」

あきらに詰め寄る

「俺も、確かその日は遠山の金さん銀さんお盆スペシャルを見ないといけな・・・」

がしっ!「暇なんだな。」

陸があきらの襟を締め上げる

「〜〜ーーぅう、わかった、わかった、行ってやるよ、だから離せ」

あきらが、苦しそうに言う

「あ、ありがとう、あきら!恩にきるぜ!」

手放しに喜ぶ陸

「しかし、今でも信じられないよ、お前がいずみのコト好きだなんてさあ」

あきらが、ふと言う

「篠原さんはなあ、やっぱり、八十八学園一かわいいぜ」

陸がうれしそうに、あきらに言った

 

その3「予期せぬ出来事」

 

「・・・・ふう」

陸が自分の部屋で、カレンダーとにらめっこしている

そのカレンダーの15日までが、マジックでペケ印をうたれている、

そう今日が約束の16日なのだ、窓の外を見る陸、その目に表の様子がはっきりと映る

雨、風、そして、なぎ倒された街路樹の死骸・・・・・人はこれを台風と呼ぶ

「なぜだ!!どうして、直撃なんだ!!」

天を仰ぐ陸、テレビの天気予報では今世紀最大級のビッグタイフーンです、

などとお姉さんがにこやかに知らせている

ごすごすごすごす、やり場のない怒りを、壁にぶつける、すると

ぷるるるるるる・・・・ぷるるるるるる・・・・電話がかかってきた

かちゃ

「はい、もしもし」

「おっ、陸か?いやぁ残念だったなあ、この嵐じゃいけないぜ」

あきらの声が、さもうれしそうに受話器から溢れてくる、

「まあ、おとなしくテレビでも見て・・・」

がちゃん!ばぎっごすごすめきゃ・・・・

「ふう・・・・」

やり場のない怒りが、電話に炸裂した

「・・・・」

呪わしい目を窓の外に向ける、しかし、

「・・・地震、雷、火事よりゃあ、怖くねえ・・・」

とふらふら足下をよたつかせながら、おもむろにかっぱをはおり、

表へ出た、足は武家屋敷に向かう

ごごごごごご・・・・・ざざざざあざざざああああ・・・

みしみしっばきっ・・・・どどどどどどど・・・・

外は洒落になってない、雨は槍のように降りかかり、風は瓦を運んでくる、

どどどっどがん!

家が一軒倒壊した、

「いやあ!」「ぎゃああ」

見ず知らずの家族が路頭に迷うが、陸は

「目の錯覚だな・・・」

と、ひたすらいずみの家をめざした、そして幾多の受難を乗り越え辿り着いた

ぴんぽーん・・・・・

「はい?誰?」

いずみの不安そうな声が聞こえる

「あ、あの、い、い、い、い、・・・」

この非常時を乗り越えても、いずみの名前が呼べない陸

「り、陸か!?お前なんで・・・・いや、とりあえず開けるからまってろ」

慌てて、いずみが門を開けた

「早く入れ、さっきお前んところに、中止にするって電話したけど、つながらなかったんだよ」

それは、さっき陸が電話を粉砕したからだろう・・・・中庭を抜けて玄関まで案内される

「しかし、よく来れたな、ここまで・・・というか、普通は来ないぞ」

いずみが呆れている

「い、いや、約束は守らないといけないかと、思って・・・」

陸がどもりながら言う

「まあ、いいや、せっかく来たから、手伝ってもらうか・・・ついて来いよ」

いずみが声をかけた

てくてくてくてく・・・長い廊下を歩く二人・・・

「高そうな壺・・・」

陸が珍しそうに壺を覗いた刹那

しぱっ!こめかみを矢がかすめていった

「!・・な、何!?」

「あ、こら、だめだぞ、そなへんのモノに手を出しちゃ、

泥棒防止用の仕掛けがいっぱいあるんだから・・・」

いずみが陸を助け起こす

「泥棒が多いから外だって、犬とか放してあるんだぜ」

いずみが窓の外を指さす、

「しゃぎゃああああ、めしゃあああ」

最早、犬ではない獣が何事か叫びながら徘徊している

「泥棒防止って、下手すると死んじゃいますよ」

さきの矢と、獣を見る陸

「いいんだよ、親父が警察と知り合いだから、ここは治外法権が認められているんだ」

おそるべし、篠原重工、倫理もへったくれもない、そうこうする内に

「ここだよ、私の勉強部屋は・・・」

と、いずみの足が、扉の前で止まった

「じゃあ、やりますか・・・」

陸が腕をまくった

 

その4「事態は思わぬ方向へ」

 

部屋の引っ越し自体は、簡単に終わった、そんなに重いモノがあるわけでもなく

体は小さくとも鍛えられた陸には、軽作業だった、新しい部屋で二人、一息ついて

おしゃべりしている

「・・・・そうだ、陸、お前なんであの赤信号渡れないんだ?」

いずみが、ふいに聞き出した

かなり、慣れたのか、いずみと簡単な会話のとれていた陸だったが、

その質問に少し表情が曇った

「・・・昔、赤信号で嫌な目に遭ったんですよ・・・」

陸が言う

「・・・・」

いずみが静かに聞く

話を続けるのを戸惑ったが、いずみの真剣さに負けて話す

「幼稚園の時、俺が信号無視して、その後を着いてきた女の子が、トラックにひかれ・・・」

ふっ、陸が話し始めたら電気が急に消えた、停電のようだ

「!!」

急に暗くなり驚く陸

「ぇえ!?ぃ、いやあ!?」

いずみが、パニくって陸に抱きついた

「でええ!?い、い、い、い・・・」

突然のことに陸が目を回す、いずみが慌てて離れる

「・・!!・・あ、ご、ごめん、竜之す・・・・」

動転したいずみから、この場に出るはずのない単語が顔を出した、

「!竜之介・・・?」

陸が眉をひそめる、慌てていずみが、言葉を止める

「い、いや、あの、・・・」

うろたえる、いずみ

「今、竜之介って・・・・」

陸がおそるおそる聞く

「い、い、い、言ってないよ、そんなこと!聞き間違えだろ!」

否定するいずみ、しかし顔がほのかに赤い

「・・・そ、そうですよね、はははは、聞き間違えですね・・・」

陸が不自然に笑う

「そう、そう、そう、そんなこと言ってない、絶対にない」

いずみも不自然な笑顔で続けた、

ぱっ、電気がまた点いた、部屋が明るくなった

その後は何もなかった、しかし、どこかぎこちなくなり、陸は篠原家を嵐の中、後にした

確かに、確かに、竜之介と・・・・・・・・・、陸には嵐は外だけのコトではなかった

 

その後「とても楽しかった」

 

あれから、幾日か経ち、陸が学校へ行く途中のコト

「・・・・」

たたたたたたたたったったったった、ばしっ!

「どわわ!?」

曲がり角で、突然走ってきた人とぶつかった、

「いたたた、あ、ご、ごめんなさ・・・

謝ろうとした相手が、いずみだった、しかし

「!!」

たたたっ、振り払うようにいずみが走っていった

「・・・・今の・・・・目に涙が?・・・泣いてたのか?」

陸がいずみの走ってきた方を見た

そこに、竜之介と楽しそうに笑う、友美の姿がある

「・・・!!、や、やっぱり・・・」

陸は慌てて、いずみを追った

・・・・くそう、こういうオチかよ・・・・やっぱり、竜之介君のことが・・・・、

認めたくなかった、悔しい・・・・悲しい・・・・畜生・・・・心の声が頭を巡る

たったったっ

「いた!!」

走るいずみの背中を見つけた、

「はあ、やっと追いついた・・・・」

「・・・・・」

何も言わないいずみ、敢えて核心を聞く

「やっぱり、竜之介君のことが・・・・」

「言うな!」

いずみが、言葉を遮る

「・・・・・」

「言うな・・・・、お願い・・・ダメなんだよぉ・・・」

いずみの目から、涙が流れる

「どうしても、あいつのコトを考えちゃうんだよ、勉強をしててもすぐにあいつが・・・・

部屋を変えて気分を変えても、どうしてもあいつが・・・・」

陸は黙って聞く、

「あいつが、誰かといると、なにか不安になるんだよ・・・・、

私じゃ自信がなくなるんだよ唯や、友美なんかずっと、女らしいのに、私は・・・」

細かく震えながら、小声で言った

「そ、そんなコトはないですよ、本当に優しいし、女の子らしくないことなんて・・・」

精一杯喋る陸

「いいんだよ、そんななぐさめは!」

いずみは、信号を渡って道路の向こうに、そして無情にも、

信号が赤に変わる。陸の中に恐怖にも似た何かが鎌首をもたげだす

・・・・・赤信号・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「大丈夫、ここは、全然車が来ないから」

「でも信号は守らないと・・・・」

「じゃあ、僕先に行くよ」

「あ、待ってよお」

・・・・・・きききっ、どずっ・・・

「え?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

忘れていたはずだった過去が、鮮やかに蘇った

陸の足は動かなかった、その足は、横断歩道にかかることはなかった

すべてが、情けなくどうしようもないと、心が潰れた

ちくしょう!どうして動けないんだよぉ・・・・・・

唇を噛み締める陸、しかし、ふいに頭を上げて

「ぃ、・・・いずみさん!!」

必死に陸はそう叫んだ、驚いて振り返るいずみ

「いずみさん、本当にそんなことはないです、

俺、本気でそう思ってますから・・・・・だから・・・」

陸が、そう言うと、いずみにうっすらとだが、笑顔が戻る

「・・・・・やっと、名前で呼んでくれたな・・・・・・・」

いずみが、言うそして

「ありがとう・・・」

と続いた

その言葉とともに、思い出は終わった

 

ちゃちな、告白は、励ましの言葉にしかなれなかった・・・・・


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