2000.1.16 Sun

 その庭の広さは六坪ほどだった。
 
そこに、楓が二本、ちゃぼヒバが二本、青木が一本、檜が一本、木犀が一本、南天が一本、そのほかに名前を知らない木が二本植えられてあった。木犀と南天のほかは、二階の窓まで伸びていた。
 UNAGI 庭の美観はまったく台無しだったが、これを作った人は、こんなに木を大きくするつもりはなかったに違いない。
 この庭の管理を受継いだ私だったけれど、関心がなかった。で、一年に一度、あるいは、一年半に一度庭師を入れるだけだった。二人の庭師は、一日で刈上げていた。

 この家に移って三年目の春に、私と彼女は庭の手入を思い立った。私は凝性なので、すぐ本を数冊買ってきて調べた。調べることは得手でも、木を上手に切ることは得手ではない。
 得手不得手というより、庭木の剪定には辛抱がいる。私にはその辛抱がなかった。子供の遊びだった。ひるめしを、二人して庭で食べたりした。彼女も私と一緒に子供になった。ままごとの食事だった。ままごとの食事はおいしかった。縁側に腰をかけて食べた。何を話したろうか。十年も前のことだ。何も覚えてはいない。ただ、時間を楽しんだのだ。

 ああ、想い出した。この古い大きな家に住んでいた、野良の三毛猫の親が、私たちの目の前を、まるで弾丸のようにヒバの木を駆け上ると、鳴いていた小鳥をくわえた。親猫は、向いの縁の下に住む子猫のところへ、それを運んでいった。すべては、ほんの一瞬の出来事だった
「すごいねェ」
 「ええ」
 私たちはお茶をすすった。私はタバコを吸った。

 彼女は、脚立を立てて、ヒバの葉を ハサミで切っていたが、背の高さほどのところから、ドサッと落ちた。声を出さなかった。そのまま伏せっていた。
 バカな……。私は笑い顔をつくってみたけれど、少し心配だった。彼女も、自分にバカなと言ったはずだ。それで黙っていたのだ。
 その時に、彼女は何かに頭を打った。そして、右手の筋を切ったので、親指が動かなくなった。庭の仕事は、それで終りになってしまった。私たちは二度と庭木をいじらなかった。不似合なことをしてはいけないのだ、とわかったからである。
 彼女は一日だけ入院して、手術を受けた。痛みどめの薬を飲んで、一週間眠りつづけた。その後、全快した。指はもとのように動いた。

 四年前に、私はこの古い家を壊してしまった。どんなものも、彼女の大切な仕事の本も燃やしてしまった。私の持物も数点を残して燃やしてしまった。古い家の霊と私自身を燃やしてしまいたかったのだ。
 新しい家の庭に三本の木がある。あのヒバもある。ヒバに責任があるわけではないので、ここに移した。彼女は六年前に脳出血で死んだ。あの時に落ちて、頭を打ったので、それで脳に傷ができたのであろうかと思うのである。

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