「鯉のいる村」あらすじ 郡上市水害・新潟中越地震支援ポスターへ
達夫の村は大きな池小さな池がたくさんある。村の経済を支えるために、ほとんどの家で鯉を飼っているのだ。子どもたちの間でも、自分の鯉を育てることがはやっていた。達夫はクロを飼っている。それは黒いまだ小さい鯉で、お父さんが稚魚をより分けるとき、ものになりそうにないと捨てたのをもらったのだ。
春はまだ浅い頃、東京から従妹のゆう子が達夫の家に来た。おじさんとおばさんの仲がまずくなって、それが片付くまで達夫の家でゆう子をあずかることになった。ゆう子は小さいけれども、見るからにハイカラな都会っ子であった。達夫はかわいい妹ができたみたいでうれしかった。
達夫はクロを山の上の小さな池に放した。達夫は毎日ゆう子を連れてその池へ行った。クロに餌をやったり池の手入れをしたりして楽しく遊んだ。
達夫には伝次郎という独身のおじさんがいた。鯉つくりにかけては右に出るものはいなかったが、変わり者なので村の人からはあまり信用されなかった。伝次郎はクロを見て、「こいつは、秋にはガラッと変わるぞ」と、言った。
夏が来た。クロはすくすく育った。達夫は、ゆう子をもうすっかり本当の妹のように思っていた。ある日、山の池から帰り、通りすがりの池すの鯉を見て「あれがほしい。達夫兄ちゃん、とって」。それは、組合長の何十万円もするサラサという鯉だった。ゆう子はいつになくだだをこね、とうとう泣き出してしまった。サラサの美しい模様が、お母さんの着物の模様にそっくりなので、お母さんを思い出したのだった。それを知らない達夫は、「ゆう子のわからずや、置いていくぞ」と怒鳴りつけ、先に帰ってしまった。
ところが意外にも、ゆう子は、ニコニコしながら帰ってきた。見事な丹頂鯉を入れたバケツを提げて。隣家の敬一が泣いているゆう子にやったのだ。ゆう子を横取りされると思った達夫は、怒って丹頂鯉を敬一にたたき返した。
秋、東京からゆう子の母が来た。ゆう子を迎えに来たのである。ゆう子はもう大喜びである。達夫も眼中になかった。そんなゆう子を見て、達夫は何とか引きとめようとして懸命だった。そして、ついに、あれほど大事にしていたクロを組合長さんのサラサと交換した。が、ゆう子の返事はそっけなかった。「もういらない」。そして、翌朝、ゆう子は母と一緒に東京へ帰ってしまった。達夫はさびしかった。
秋のおわり。鯉のコンクール。組合長さんの手に渡ってしまったあのクロが一等賞になった。達夫は無念だった。伝次郎は達夫に言った。「まあ、いいさ。天ぷらにされそうだったクロを拾って育てたのはお前だってことをクロはよく知っているよ」。達夫は、そっと手を伸ばして、水の中の元気なクロに指をしゃぶらせる。二人の肩越しに白いものが落ちて来て、水の面に消える。
冬が、又、そこにやって来た。
親子映画第七作「鯉のいる村」共同映画渇社 パンフレットより