アユの産卵について私はよくは知りませんでしたが、この会を知ってからいろいろ教えられています。
今日、紹介する文章は私にアユのことを深く教えてくれたので会報より転載します。   (川上朝史)

    

     

       (写真はアユ漁解禁の吉田川・尾崎シシヶ瀬付近 6月15日 八幡町)

「河口堰に反対し、長良川を守る岐阜県民の会」発行
           「くらしと環境 ながら川」(53号:発行 2003年12月27日)より
             
 (特別報告U) アユの生態に及ぼす外部環境変化の影響         古屋康則岐阜大学助教授


1.アユの生活史
  アユは両側回遊魚である(河川生まれ・海で成長・河川で成長)・アユは年魚である
   河川の中下流で産卵(秋)⇒ふ化⇒直ちに降河⇒沿岸域で生活・成長(冬)⇒河川へ遡上(春)⇒
   河川で生活・縄張り形成・急成長⇒産卵場へ向けて降河(初秋)⇒産卵(秋)

2.河口堰による影響予測
  
  河口堰の影響は大きく分けると2つ
   湛水域の形成・河川と海との遮断
  
  アユの生活史に沿った影響予測
   湛水域の形成により:流下の遅れ・餌不足・水質悪化・捕食
   河川と海との遮断により:捕食・他の河川への迷入・遡上の障害

3.仔魚の降河生態ー揖斐川と長良川の比較ー
   産卵場の下端は両河川とも河口から約41km
   アユ仔魚の卵黄は、ふ化後6日程度で吸収される
    耳石による日齢査定⇒揖斐川では平均3.7日で河口堰へ
                   長良川では平均12日で河口堰へ
    長良川では降河に伴い個体数密度が1/5に減少⇒餌不足が原因か?
    河口域の餌生物(動物プランクトン)⇒揖斐川汽水域では多い
                            長良川汽水域では少ない
    アユ仔魚は卵黄を食べて全て吸収する前に餌の豊富な汽水域に到達しなければならない!

4.遡上状況の経年変化 −遡上個体の日齢組織ー
  魚道を通過するアユ稚魚の耳石⇒ふ化日を推定
    1997年は9月下旬から12月中旬生まれ(ピークは11月上旬)
    1998年は9月下旬から12月下旬生まれ(ピークは11月上中旬)
    1999年は10月下旬から1月下旬(ピークは11月下旬)
   ふ化日が年々遅くなっている⇒産卵が遅れている?×
                      遅く生まれたものだけが生き残っている?○
   早い時期にふ化⇒水温が高い⇒卵黄の吸収が早い・代謝が活発⇒海へ到達できない
   遅い時期にふ化⇒水温が低い⇒卵黄の吸収が遅い・代謝不活発⇒なんとか海へたどり着く
   湛水域の降河障害の影響を物語っている?!

5.性成熟に及ぼす水温・日長の影響
   アユの産卵期は秋である⇒水温低下・日長短縮
   アユの性成熟は日長の短縮によって開始する⇒短日促進
     日長を自然状態よりも早期に短くすると産卵期が早くなる
     8月以降も日長を長く保つと成熟が抑制され12月になっても元気である
   臨界日長は季節的に変動:春には短く(11.5〜13時間)、夏には長い(15時間)
   成熟速度は短縮した日長の差に影響:急激な日長の短縮は急激な成熟を誘導する
   水温は性成熟に直接には影響しない⇒アユの産卵期が年によって大きく異なることはない
   成熟が始まるとその時点の体長に応じた数の卵を作る⇒出来るだけ早く成長した方が得

6.魚類の性成熟の内分泌制御
   性成熟に関わる内分泌因子は3つ(哺乳類と一緒)
      GnRH・GTH・性ホルモン(男性ホルモン・女性ホルモン・性成熟誘起ホルモン)
    @日長の短縮
    A視床下部からGnRHの分泌
    B脳下垂体からGTHの分泌
    C♀卵巣から女性ホルモンの分泌          ♂精巣から男性ホルモンの分泌
    D肝臓で卵黄タンパク質の合成            卵巣で精子形成
    E卵黄タンパク質の卵への取り込み(卵の成長)  輪精管に精子が貯留
    F卵巣から成熟誘起ホルモンの分泌         精巣から成熟誘起ホルモンの分泌
    G卵母細胞が成熟・排卵                精子が運動能を獲得・排精
    H雌雄とも産卵準備完了

7.アユの産卵に及ぼす河川環境の影響
    アユの産卵場の特徴:瀬(流れが速く、水深が浅く、小さな砂利が舞ってくる)
    このような環境が産卵には必要なのか?
      水槽で未成熟の雌雄を飼育⇒成熟せず産卵しない
      水槽で水流ポンプと砂利を入れ未成熟の雌雄を飼育⇒成熟して産卵する
           ↓
      アユの成熟には産卵場の環境が必要である   
    産卵場の環境は雌雄のどちらに必要なのか?
      水槽で未成熟雄と雌を単独で飼育⇒成熟せず(排卵・排卵しない)
      水槽に水流ポンプと砂利を入れ未成熟の雄を飼育⇒少し成熟する(排精反応あり))
      水槽に水流ポンプと砂利を入れ未成熟の雌を飼育⇒成熟せず(排卵しない)
           ↓
      雄には必要なようだが、雌には必要ない?
           ↓
      雄には産卵場の環境と雌が必要・雌には産卵場の環境と雄が必要
      産卵場の環境中で雌雄がそろって初めて成熟する(雌雄間のフェロモンによる相互作用)
    河川の不用意な改修はアユの生殖内分泌を狂わせる!

8.アユの産卵場形成の要因
    アユの産卵場は瀬(流れが速く、水深が浅く、小さな砂利が舞っている)である
    瀬は河川の上流から下流まで沢山ある⇒なぜ特定の瀬が産卵場となるのか?
    規模の小さな河川では、ふ化するとその日(夜)のうちに汽水域に到達する
    長良川のような大規模な河川では最下流の瀬でも汽水域まで数日かかる
      ふ化仔魚は卵黄が吸収される前に汽水域に到達しなければならない
             ↓(↑初めて知りました。朝史)      ↓
      成熟するとその場で産卵          成熟すると下流に下って産卵
             ↓                         ↓
      上流で産卵すると間に合わない     中流から下流の瀬で産卵すると間に合う
             ↓                         ↓
      途中で死滅し河川に戻ってこない     海で育った稚魚は河川に戻ってくる
             ↓                         ↓
      このような特性をもつ個体は消滅する  このような特性をもつ個体は子孫を残せる
    (どこで河口堰が幾万年の自然の流れを壊したかが分かる気がします。朝史)

    成熟すると下流に下って産卵する性質をもつ個体(遺伝子)のみが子孫を残す
    このような性質や産卵場は河川ごとに異なる可能性がある
                      ↓
    むやみな稚魚放流は河川特有の遺伝的特性を失わせる可能性がある
      


「河口堰に反対し、長良川を守る岐阜県民の会」は会費制でなくカンパで運営されてます。
  カンパの申込みは 郡上市八幡町 加藤雅子さん(旅館・中嶋屋)電話(0575)65−2191 まで