八衢の巻 水野隆・捌
行逢はむ春八衢(やちまた)の星あまた 隆
息やはらかに辛夷ひらきぬ 服部秋扇
姫虻のちさき羽音に耳とめて 本屋良子
稚児つらなれるくれなゐの頬 種川とみ子
みそなはす玉兎美しくおほらけく 伊藤哲子
花野はつヾく螺旋塔まで 有住洋子
ウ
聖戦に砧打ち待つ母ありて 加藤兎女
サロメは尾鰭いまは待ちたり 洋子
青ざめし白磁の皿に十字架(クルス)置く 哲子
亜麻いろの髪解きはなつ宵 秋扇
トロカデロの風ドビュッシィー漂ひて 関口玄子
かき氷食ふ三日月の面(つら) 志治美世子
梅雨吸っていよいよ尖る山の峰 玄子
旅の役者のやどる洞穴 兎女
大爺の荒縄つよし雪囲 とみ子
芭蕉十哲それぞれの背(せな) 小松知二
わらんぢに紙子はをりて降る花に 良子
木の芽の奥は神のまします 美世子
ニオ
雲雀東風(ごち)少年リルケ諳(そらん)じよ 哲子
未完の街の灯(あかり)つきそむ 柴子
とりあへず靴下を脱ぎ膝まくら 美世子
薔薇盗ッ人はブロンドの影 洋子
さゝ揺るゝ明治洋館青き蔦 隆
港の丘の夕の合唱 谷崎信治
外人墓地みんな海向くさびしさよ 兎女
まだ抜け出せぬ人形の家 良子
鴨鍋の甘き葱噛むうたげにて とみ子
せきれいあゆむ古き舟宿 大谷眞智子
磨き澄ます鏡かすかに月錆びぬ 隆
明智が妻の世にかくれゆき 秋扇
水軍はかくれ平家の裔(すゑ)といひ 美世子
柊挿して兎を呼び寄せ 哲子
海鳴りや飛沫(しぶき)も凍るたっぴ岬(さき) 知二
てふてふけふもわれを生きつゝ 美世子
想ひみよ花のもとにて逝きしひと 知二
君知りてより若草の満つ 美世子
平成十五年四月ニ日 首尾
於 東京六本木岐阜県事務所