さくら瞼の巻
水野
隆
捌
前生のさくら瞼に夕蒼む
隆
未来へと揺る影の鞦韆
谷崎真治
菜種梅雨仰げば雫額打ちて
水野光哉
満身創痍騎馬の若武者
古田了
月光に大地の芒ひれ伏しぬ
清水遥見
秋水のごと澄みて虚空ぞ
水野五月
雁がねのつらなる先は異国に
て
斉藤佳成
ゆくてをはばむ貴婦人の群れ
蓑洞美幸
午前零時かぼちゃ車に乗り遅れ
遥見
硝子のうさぎかのひとの手に
美幸
挽きたての珈琲の香に解くこころ
遥見
白紙に滲む一滴の紅
隆
閂に闇閉じこめて霜の月
隆
天使の翼負ひて戯れ
了
蝙蝠は軒の日照雨にひくく飛び
信治
ドラキュラ伯の大欠伸する
佳成
隻眼の軍師と汲まむ花の酒
光哉
むかしの春を星のまたたく
美幸
亀鳴くやしくしくと夜のアイヌ悲史
了
世界遺産の聖地色褪せ
信治
アルマジロ丸く炎昼遁走す
五月
頬杖ついて綴る侘び状
信治
北極のきらめき届くわが鏡
隆
凍蜂は刺す胸の奥処で
光哉
冬薔薇己が居場所を見定めて
遥見
言葉の湖に詩人溺るか
了
訪ふ風を名付けて窓にひとりごつ
古田憲治
釣瓶おとしのべんがら格子
遥見
みちばたに座すべき石や月の道
信治
ひっそりと咲け露の七草
美幸
姫のそののち物語らむと琵琶を抱き
隆
指からこぼれ青きビ│ドロ
遥見
おもしろき茶店のありか聞き及ぶ及び
憲治
ラ
・カンパネラ高く弾けて
信治
花浮かす杯洗いつかたそがれぬ
隆
終の棲に美しき蝶舞ふ
遥見
平成十九年四月十六日
首尾
───────────────────────────────────────────────────────────