さくら瞼の巻



水野



前生のさくら瞼に夕蒼む











未来へと揺る影の鞦韆







谷崎真治
菜種梅雨仰げば雫額打ちて






水野光哉
満身創痍騎馬の若武者







古田了

月光に大地の芒ひれ伏しぬ







清水遥見
秋水のごと澄みて虚空ぞ






水野五月
雁がねのつらなる先は異国に





斉藤佳成

ゆくてをはばむ貴婦人の群れ




蓑洞美幸
午前零時かぼちゃ車に乗り遅れ






遥見

硝子のうさぎかのひとの手に





美幸
挽きたての珈琲の香に解くこころ





遥見


白紙に滲む一滴の紅










閂に闇閉じこめて霜の月










天使の翼負ひて戯れ











蝙蝠は軒の日照雨にひくく飛び






信治
ドラキュラ伯の大欠伸する






佳成
隻眼の軍師と汲まむ花の酒








光哉
むかしの春を星のまたたく






美幸
亀鳴くやしくしくと夜のアイヌ悲史




世界遺産の聖地色褪せ




 


信治
アルマジロ丸く炎昼遁走す






五月
頬杖ついて綴る侘び状







信治
北極のきらめき届くわが鏡








凍蜂は刺す胸の奥処で







光哉
冬薔薇己が居場所を見定めて





遥見
言葉の湖に詩人溺るか









訪ふ風を名付けて窓にひとりごつ

古田憲治
釣瓶おとしのべんがら格子





遥見
みちばたに座すべき石や月の道




信治
ひっそりと咲け露の七草






美幸
姫のそののち物語らむと琵琶を抱き




指からこぼれ青きビ│ドロ





遥見
おもしろき茶店のありか聞き及ぶ及び

憲治

・カンパネラ高く弾けて





信治
花浮かす杯洗いつかたそがれぬ






終の棲に美しき蝶舞ふ







遥見
平成十九年四月十六日




首尾
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