ともは懸命に息んだ。「おぎゃ-」、やや、かん高い声がした。長男・慶隆を初めに5度目の出産であったが、今回程に苦しんだことはなかった。実家の東家を、夫・遠藤盛数が滅ぼした後のこと、今までとは様子が変った。
夫・盛数は、ともの実父・東常慶や弟・常尭のことは依然、口に出さなかった。ただ「ややは女子か。よし、よし。後の養生を怠るな。」とだけ言って今日も八幡へ向かった。東殿山の合戦以来、郡上郡内は一旦は静まったかに見えた。
盛数は木越城の亡兄・遠藤胤縁の長男・胤俊(大隅守)に言った。「これからは、お前とわしの両遠藤が力を合わせるのだぞ。」