「たッ、大変です!木越城の兄上が、神路で鉄砲で撃たれました! 赤谷山へ八朔の祝いを届けた帰りでした。」
急を告げる家臣に、ともは一瞬気を失うばかりだった。
実弟・東常尭(とうのつねたか)が、家臣に命じて、夫の遠藤盛数の兄・胤縁を殺したというのだ。
「おのれ、常尭め。ともの実家とて許さぬぞ。」盛数は苅安から粥川・餌取・畑佐に兄の弔い合戦の檄を飛ばした。
ともは父・東常慶の悲痛な顔が目に浮かんだ。
庭のノウゼンカズラの鮮やかな朱を呆然と見つめていた。
永禄2年(1559)8月1日の暑い日のことだった。
※八朔とは旧暦8月朔日(ついたち)のこと。木越城は大和町にある。