公學校國語敎授書
第一學年用（抄）
大正２年（１９１３年）刊行
大正２年（１９１３年）発行の『公學校國語教授書第一學年』用の教授書をテキスト化します。
特に日本語教育と関連の深い部分をテキスト化します。
臺灣における「國語」教育最初の直接法による教授体系となった書でもあります。
どこかに覚えのあることが書かれていますが、今から８５年以上も前のことです。
この教授書を見ながら、現代の日本語教授法を見つめ直すのもよいかと思います。
公學校國語敎授書
第一學年用
凡 例
一、本書ハ公學校第一學年ニ於ケル國語科敎授用トシテ編纂セリ。
一、本書ハ先ツ之ヲ學期ニ分チ､更ニ一敎材ヲ大凡一週ニ配當シテ
掲ケタリ｡尚新入學兒童ニ對スル準備及ヒ夏季休業前後ニ於ケ
ル時間ノ短縮ヲ考慮シ､第一學期ハ十二週第二學期ヲ十四週､第
三學期ヲ九週トシタリ｡
一、本書ハ第一學期ノ始四週間ヲ全ク言語敎授ノミニ充テ､第五週
ヨリ文字敎授ヲ併せ行ヒ､同時ニ讀本ヲ使用セシムルコトトシ､
大凡左ノ記載例ニヨリテ敎授ノ方法ヲ記述セリ｡
| 一 | 形式 | ||||
| （イ） | 句 | ||||
| （ロ） | 語 | ||||
| （ハ） | 文字 | ||||
| （ニ） | 假名遣 | ||||
| 二 | 發音 | ||||
| 三 | 内容 | ||||
| 四 | 敎辨物 | ||||
| 五 | 敎授上ノ注意 | ||||
形式ニハ主要ナル句･語･文字及ヒ注意スヘキ假名遣ヲ擧ケ､｢發音｣ニハ兒童ノ
最モ困難トスルモノト､其ノ屡々陥リ易キ訛音トヲ括弧内ニ示セリ｡其ノ他｢内
容｣ノ梗概竝ヒニ必要ナル敎辨物ヲ示シ､最後ニ｢敎授上ノ注意｣ヲ掲ケタリ｡但
シ第一學期第四週ニ至ル迄ハ｢(ハ)文字(ニ)假名遣｣ノ項ヲ缺キ､第一學年前半期
ニハ｢内容｣ノ項ヲ省キタリ｡
一、又本書ニハ純言語敎授ト言語文字併行敎授トノ方法一斑ヲ知
ラシメンカ爲､第一學期第二週及ヒ同第九週ニ於テ稍々詳細ナル
敎案例ヲ出セリ｡
大正二年八月
公 學 校 國 語 敎 授 書 第一學年用
第 一 學 期
第 一 週
一 本週は入學の最初なれば直ちに國語敎授をなし難し｡故に本週は主として
臺灣語によりて敎室の出入､敎室内の心得､運動場にありての心得､その他兒
童訓練に關聯せる事項を授けおかざるべからず｡然れども簡單なる號令､挨
拶等は固より國語を用いて之に慣れしめざるべからず｡以下其の主なるも
のを掲ぐ｡
二 敎室の出入敬禮につきては､
氣ヲ付ケ､右向ケ右(左向ケ左)｡前ヘ進メ｡
オ立チナサイ｡禮｡オカケナサイ｡
分レスゝメ｡
の如きを敎授練習すべし｡これ等の敎授は臺灣語の補助をかるも差支なし
と雖も､なるべく敎師は自ら令し自ら範を示して了解せしむるを可とす｡
三 敎場用語の
静カニ｡マッスグニ。
手ヲアゲナサイ｡手ヲオロシナサイ｡
ヨロシイ｡イケマセン｡
の如きも､兒童の了解すると否とに關せず､早くより國語をしようすべし｡
四 朝の挨拶歸りの挨拶もこの週より實行せしむべし｡即ち､
｢朝學校ヘ來テ先生ニ出アッタラ禮ヲシテ､
先生アハヤウ(ゴザイマス｡)
ト挨拶シナサイ｡｣
｢歸ル時ニハ禮ヲシテ､
先生､サヤウナラ
ト挨拶シテ歸リナサイ｡｣(＿＿の部のみ國語)
という如く説き聞かせて､この語の練習をなすべし､
五 第二週よりは國語の時間の初には､
コノ時間ハ國語デス｡
と言ひて授業を始むべきも､第一週は國語の時間とかんか看做さゞれば從って之
を言ふを要せず｡
六 國語の時間は國語のみにて敎授せらるゝものにて､國語以外に臺灣語を使
用すべからざることを､第二週にうつる前に懇々兒童に注意しおくべし｡
七 以上のことは約半週にて了解せしめらるべければ､年度の都合により時間
の配當は必ずしも本書に示せる所に從ふを要せず｡第一學期中に適當に之
を配當すれば可なり｡
八 兒童の姓名は初より國語の音にて取扱ふことに注意すべし｡
| 一 | 形式 | |||
| （イ） | 句 | コレ(ソレ)ハ○○デス｡ コレ(ソレ)はナンデスカ｡ |
||
| （ロ） | 語 | 本 紙 机 椅子 石盤 石筆 | ||
| 二 | 發音 | デス(レス) ツクエ(チュクヱ) セキバン(セキマン､シキバン) カミ(ハミ) | ||
| 三 | 敎辨物 | 敎授すべき語に對する實物 | ||
| 四 | 敎授上ノ注意 | （イ） | 本週より眞の國語敎授に入る｡此の際特に注意すべきは､國語敎授中は敎師 も兒童も絶對に臺灣語の使用を避くることなり｡國語を國語にて了解せし むるは､國語敎授の第一原則なることを忘るべからず。 |
|
| （ロ） | 先づ發音の容易なる｢本｣を敎授す｡敎師本を取りて｢コレハ本デス｣といひ､兒童 に｢本｣の發音練習をなさしむ｡この場合に敎授者は唯｢本｣と發音して､兒童にも ｢本｣の發音練習をなさしむるもよけれど､敎授者は初より､｢コレハ本デス｣と發 音して､兒童に｢本｣のみを練習せしむるが便利なり｡ |
|||
| （ハ） | ｢紙｣に就きても同様 | |||
| （ニ） | 右二語を練習して後､ コレハ紙(本)です｡ の練習に入る｡正しくいへば兒童には｢ソレハ｣と言はしむべきなれど､この時 は專ら自由に發音せしめて口の練習を中心とし､言葉の意味はやゝ後れて 知らしむべきものなれば､唯｢コレハ紙デス｣にてよし｡ |
|||
| （ホ） | 發音出來れば兒童を敎壇上に呼び出して､敎卓上にある紙､本を持たしめて､ コレハ紙デス｡コレハ本デス｡ の練習をなす｡ |
|||
| （ヘ） | ｢机｣｢椅子｣｢石盤｣｢石筆｣の敎授同様 | |||
| （ト） | 敎卓上のもの､又は各自のものにつきての練習も右同様｡ | |||
| （チ） | ｢コレハ本デス｣の形式十分なる時､｢ソレハ本デス｣の敎授にうつる｡この時敎授 者は本を手に持ちて､ コレハ本デス｡ といひ､本を卓上に置きその本を指して､ ソレハ本デス｡ といふべし｡かくて兒童にこの發音を敎授練習し､後卓上の本又は各自の本 につきて､ コレハ本デス｡ソレハ本デス。 を練習す｡机､椅子､石盤､石筆につきても同様に練習す｡ |
|||
| （リ） | 右の練習終わりて問答にうつる｡先づ本を取りて､ コレハナンデスカ｡ と問ひ兒童に指ししめして､ ソレハ本デス｡ と答へしめよ｡｢コレハナンデスカ｣の問は初めより兒童の了解する所にあら ず｡唯幾多綜合せる事實より歸納的に了解するものなれば｢意味の解否に關 せずこの問答をなすべし｡ ｢コレハナンデスカ｣の問ひは､机､椅子等に直に應用して練習せしむべし｡ |
|||
| （ヌ） | 次に兒童の持てるものを指して､ ソレハナンデスカ｡ コレハ石盤デス｡ の如き､｢コレ｣と｢ソレ｣との逆になれるものを練習す｡ |
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| （ル） | かゝる内に兒童は自然に問答の関係を了解すべければ､二人の兒童を呼び 出し､左の例に傚ひて一人をして問はしめ一人をして答へしむ｡但しこの問 の語は､やゝ困難なる所あれば敎授者は兒童を助くべし｡ コレハナンデスカ｡ ソレハ石盤デス｡ |
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| （ヲ） | 以上の敎授を十二時間に配當するは､あまりに輕き敎授の如く思はるゝ如 きも､練習を中心とし､自由發表を尚べば､これだけを十分に了解すればよし｡ |
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| （ワ） | 劣等兒童は第一週より既に後れ勝となるものなれば､基礎敎授中の基礎な るこの週には､十分に活動せしむるやう注意すべし｡ |
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| （カ） | 兒童の中には口の自由に動かぬものあり､發音不明瞭のもとは多く之に基 づく｡されば各時間の始又終に､發音及び口形練習をなし置くは､後來の發 音敎授上大切なることなり｡ |
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| （ヨ） | 兒童の中には口の形の十分動かざるものあり､發音は口の外形にのみよる ものにあらざれども､口形は發音上主要なるものたるを失はず｡故に､本學期 の初三週間位は､各時間に口形練習を配して一は以て口形を正し､一は以て 教材過小のために､生ずる缺を補ふべし｡ |
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| （タ） | 今左に本週の敎案例を示して參考に資せんとす｡ |
| 第一時限 | 第二時限 | 第三時限 |
| 本 紙 コレハ本デス｡ コレハ紙デス｡ |
復 習 | 復 習 |
| 第四時限 | 第五時限 | 第六時限 |
| ソレハ○○デス｡ | 復 習 | コレハ何デスカ｡ |
| 第七時限 | 第八時限 | 第九時限 |
| ソレハ何デスカ｡ | 復 習 | 机 |
| 第十時限 | 第十一限 | 第十二時限 |
| 椅 子 | 復 習 | 復 習 |
| ○第 一 時 限 | |
| 敎材 | 本 紙 コレハ本デス｡ コレハ紙デス｡ |
| 敎順 | |
| 一 | 前週敎授したる｢オ立チナサイ｣｢禮｣｢オカケナサイ｣などを練習す｡ |
| 二 | 敎師は先づ準備せる本をとりて コレハ本デス｡ といひ､明瞭なる發音にて二三度繰り返し､｢本(ホン)｣の音のみ齊唱さしむ｡後各兒につき て｢本｣の發音なさしむ｡この發音は困難ならず｡ |
| 三 | 次に紙を取りて､ ソレハ紙デス｡ といひ､｢紙｣の練習前の如し｡兒童はともすれば｢ハミ｣と發音す｡注意を要す｡ |
| 四 | ｢本｣｢紙｣の音を了解せる時､本を取りて､ コレハ？ と問ひ兒童に「本」と答へせしめ､紙を取りては｢紙｣とこたへしむ｡(齊唱、各唱) |
| 五 | 次に本を取りて､ コレハ本デス｡ と提示し､この音を練習す｡勿論この場合に､其の正確なる意味は了解せられざるべけ れば､唯發音のも正せばよし｡(齊唱、各唱) |
| 六 | ｢コレハ紙デス｣同前｡ |
| 七 | 以上の敎授すまえば口形練習にうつる｡初は囁音､次に音を發せしむ｡ |
| ○第 二 時 限 | |
| 敎材 | 復 習 |
| 敎順 | |
| 一 | 先づ｢本｣｢紙｣の復習 |
| 二 | 「コレハ本デス｡」｢コレハ紙デス｡｣の復習 前時限には｢デス｣の音尚明らかならず｡此時限にはやゝ矯正せらるべきも､未だ十分な る能はざるべし。 |
| 三 | ｢本ヲダシナサイ｣と命じ､敎師本を卓上に出す｡兒童は其の意を解せざるも敎師に傚 ひて本を出す｡因って各自に本を持たしめて｢コレハ本デス｣の練習をなす｡ |
| 四 | 敎卓上に本､紙､本､紙の順序に竝べおきて､兒童を呼び出して之を持たしめ､ コレハ本デス｡ コレハ紙デス。 の練習をなす｡ |
| 五 | 發 音 口形練習 |
| ○第 三 時 限 | |
| 敎材 | 石盤 石筆 |
| 敎順 | |
| 一 | 前時限と同様なる敎順による｡ |
| 二 | ｢石盤｣｢石筆｣の提示は｢本｣｢紙｣の提示と同様｡ |
| 三 | 本､石盤､石筆を出さしめて､ コレハ本デス｡コレハ石盤デス｡コレハ石筆デス｡ を練習す｡ |
| 四 | 敎壇上､紙､本､石盤､石筆､につきての練習前時限と同様｡ |
| 五 | 發音 口形練習｡次第に早く練習す｡ |
| ○第 四 時 限 | |
| 敎材 | |
| 敎順 | |
| 一 | |
| 二 | |
| 三 | |
| 四 | |
| 五 | |
| 六 | |
| ○第 五 時 限 | |
| 敎材 | |
| 敎順 | |
| 一 | |
| 二 | |
| 三 | |
| ○第 六 時 限 | |
| 敎材 | |
| 敎順 | |
| 一 | |
| 二 | |
| 三 | |
| 四 | |
| 五 | |
| 六 | |
| ○第 七 時 限 | |
| 敎材 | |
| 敎順 | |
| 一 | |
| 二 | |
| 三 | |
| 四 | |
| 五 | |
| ○第 八 時 限 | |
| 敎材 | |
| 敎順 | |
| 一 | |
| 二 | |
| 三 | |
| 四 | |
| 五 | |
| ○第 九 時 限 | |
| 敎材 | |
| 敎順 | |
| 一 | |
| 二 | |
| 三 | |
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